2015 Fiscal Year Research-status Report
日本の遠洋漁業におけるグローバリゼーションの諸相に関する人類学的研究
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15K03037
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
風間 計博 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (70323219)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文化人類学 / グローバリゼーション / 遠洋漁業 / 出稼ぎ / キリバス / インドネシア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本の遠洋漁業のおかれた危機的状況をグローバリゼーションとの直接的関連において捉える。遠洋漁業は、多様なトランスナショナルなアクターのせめぎ合う、グローバリゼーション現象の具現化した縮図としてみることができる。本研究の目的は、遠洋漁業における諸アクターの実践を民族誌的に記述し、グローバルな競争のもとにある資本、ローカルな文化、国家政策、入漁料交渉や国際的水産資源管理等の錯綜した関係をモデル化して考察することである。 本年度は、国内外の複数地点で実地調査を行い、面談や文書資料収集を行った。実地調査に先立ちまず、東京海洋大学等において遠洋漁業関連の研究者や、国内のインドネシア人出稼ぎ者を対象としている人類学者から基本情報を収集した。そして、以下の通り、国内外各地で多様な関係者から情報を収集した。 1)インドネシア・ジャカルタにおいて、水産関連の官僚や海員組合幹部、日本の近海マグロ延縄漁船出稼ぎ経験者に面談した。2)東日本大震災の津波被害からいまだ復旧していない、宮城県気仙沼市において、近海巻き網漁業組合関係者と面談を行った。3)遠洋カツオ1本釣りや巻き網漁業の拠点である静岡県焼津市の漁港において、外国人漁船員斡旋会社オーナーや従業員、海外巻き網漁業会社社員、キリバス人出稼ぎ漁船員との面談を行った。4)海外巻き網漁業の拠点である鹿児島県指宿市の山川漁港において、漁協関係者やキリバス人の集う酒屋オーナーに対して面談調査を行った。 このように多様なアクターから情報を収集することにより、日本の遠洋漁業をめぐる複雑な関係性の一部について、大まかに把捉することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究開始の初年度であるため、国内外の広範な地点において実地調査を行い、日本の遠洋漁業(カツオ1本釣り、巻き網、マグロ延縄等)を取り巻く環境の概略をつかむことに主眼を置いた。その目標は、ほぼ達成することができたと考えられる。 また、日本人の漁業関係者や日本漁船の外国人出稼ぎ経験者との面談により、多文化状況における船上労働に関する協働のあり方や寄港時のトラブルについて、主に日本側の当事者がいかに理解(あるいは誤解)しているか、具体的な情報を収集することができた。 さらに、資源管理や入漁料交渉をめぐる日本の遠洋漁業の置かれた厳しい状況について聞き取りを行った。また日本の漁家は、グローバルな競争のなかにありながらも、きわめてローカルな因習的実践を行っている。経営や支払い方法、漁撈と信仰との関わり等、さまざまな次元の情報を得ることができた。断片的な情報も多いが、遠洋漁業の多面性を考慮すれば、むしろ当然の結果である。今後の調査研究の展開において、収集した些細な情報が重要性をもつ可能性があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目の次年度は、積極的に文献収集を行い、引き続き国内外で実地調査を行うことになる。国内では、初年度と同様に静岡県焼津漁港をはじめ、九州や東北地方の遠洋漁業の拠点漁港において、情報収集を行う。さらに、海外調査では、日本の遠洋漁業に出稼ぎ者を送り出す側の組織や親族に関する実地調査を行う。また、日本漁船が寄港したり、漁獲物を運搬船に移す海外の漁港等を視察することも検討している。 収集した多様な情報を関係づけるために、漁業関連の研究者や人類学者、民俗学者から知見を得るように努める。同時に、グローバリゼーションに関わる文献や、日本の漁業習俗に関する文献を検討する。文献研究を進めることにより、問題系を理論的に収斂させていく方向性を探る。資料分析と理論的考察を踏まえて、年度末までに、問題系の整理を目指す。
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Causes of Carryover |
当該年度計画と比べると、旅費および人件費は、ほぼ予定通りの金額を支出した。物品費の支出を見ると、予定金額をわずかに下回った。これは、設備備品に関する必要支出が、運営費によってある程度賄えたためと考えられる。また、遠洋漁業関連の人類学的文献の収集が予定していたよりも少なく、支出が伸びなかったことも考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実地調査経験を勘案して、漁業関連の文献収集に関して、民俗学や地理学まで拡大して行うことを考えている。加えて、中間年度であることを踏まえて、考察のための枠組みを構築するために、グローバリゼーション関連の文献収集を充実させる必要がある。また、海外調査や国内調査を積極的に行い、一次資料の蓄積を図る。
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Research Products
(3 results)