2016 Fiscal Year Research-status Report
性からみるアメリカ黒人の社会運動:オリシャ崇拝運動の変容に関する文化人類学的研究
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15K03038
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小池 郁子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (60452299)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 思想哲学・教育 / 社会運動 / 人種・民族 / ジェンダー / 植民地主義 / アメリカ研究 / 黒人研究 / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、今日のアフリカ系アメリカ人がどのような社会に生き、なにを人種(主義)、人種的な苦悩、痛みと結びつけているのか、さらに、そうした社会状況にたいしてどのような生を生きようとしているのかを彼らの人種と性に関するトラウマの経験をもとに検討した。現在の社会が抱える人種(主義)の問題や、人種的な苦悩、痛みは、黒/白、男性覇権主義/女性覇権主義の二元論をもとにした社会運動で乗り切れるほど単純ではないことは、1960年代半ばから70年代半ばのブラック・ラディカリズムの衰退やオリシャ崇拝運動の実践形態の変容からも見て取れる。そうしたなか、オリシャ崇拝運動では、奴隷という「経験」は、祖先と関係づけられながら記憶され、語られている。この祖先崇拝という記憶の在り方と、そこから導かれる物語が、ときには、人種、性に関する苦悩、痛みに対峙する力、緩衝剤となっている。 オリシャ崇拝運動でみられる祖先崇拝の諸実践には、他者との関係性を築く作用があるが、その他者からは個人の出自(縁)、名もなき祖先を鎮魂するための共同性、運動の集団性を織りなすための他者を見出せる。祖先崇拝には、個人的実践と集合的実践が共存し、それによって、集団の記憶にかならずしも相容れない記憶も、個人の記憶として語られ、実践される機会、可能性が残されている。たとえば、運動の共同性の礎として、王制と一夫多妻を実施することは、米国の民主主義と一夫一婦制(性倫理)への挑戦的代替案であった。しかし、その共同性は、女性成員の性のあり方を束縛し、女性を軽視した運動の実践方法、つまり運動の衰退を招く原因でもあった。それゆえに、運動が祖先崇拝を実践することによって、女性成員が運動そのものの否定的な記憶(集団の記憶)から距離を置く時間と空間を獲得することに意義がみいだされるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究は、研究目的および研究実施計画にしたがっておおむね順調に進展している。平成28年度は資料文献の収集・精査 、ならびに文化人類学的な現地調査を短期間にわたり実施することができた。そのため、アメリカ黒人をはじめとする黒人の社会運動(宗教、文化運動)や、市民運動、民族運動そのほかにおいて、人種、男性覇権主義/女性覇権主義、下層階級、排外主義、暴力、植民地主義、宗教がどのように交錯しているのかを考察することができ、研究を当初の予定にしたがい遂行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究はおおむね順調に進展したため、今後の研究においても、研究目的および研究実施計画にしたがって取り組めるよう留意する。とりわけ、最終年度も予定している文化人類学的な現地調査は、中期間から長期間にわたって実施する必要があるため、調査対象者、協力者そのほかとの入念な打合せとその後のフォローアップが欠かせない。そのため、時間的余裕をもって現地調査に望めるよう準備にとりかかる。また、本研究は、その研究目的を達成するため、現地調査と連携させつつ、その研究内容を補足、発展させるべく資料文献の収集、精査に従事するよう努める。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究では、アメリカ黒人の運動におけるジェンダー、人種、階級、植民地主義および米国の公民権運動とポスト公民権運動時代における反戦・反植民地主義運動について検討し、資料文献の収集・精査をする必要があった。その際、アメリカ黒人の運動におけるジェンダー、人種、階級、植民地主義に関する資料文献の収集・精査に重点的に取り組んだうえで、米国のポスト公民権運動時代における反戦・反植民地主義運動の性格とそのグローバル的意義に関する資料文献の収集・精査に取りかかることが研究調査上必要であると判断した。そのため、後者に係る一部研究調査に関して次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の研究の早期段階において、ポスト公民権運動時代における反戦・反植民地主義運動に関する資料文献の収集・精査をおこない、次年度使用額分を支出する計画である。それに平行しつつ、平成29年度の研究実施計画にしたがって研究を実施する。
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