2016 Fiscal Year Research-status Report
在宅ケアにみる家の記憶とエージェンシーに関する文化人類学的研究
Project/Area Number |
15K03043
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
福井 栄二郎 島根大学, 法文学部, 准教授 (10533284)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 家 / エージェンシー / 日本 / スウェーデン / ヴァヌアツ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、科研課題研究に関する「理論的考察」を行った。昨年の研究をより深化させ、現在の文化人類学の潮流のひとつである「存在論的転回」に対する批判的考察を重点的に行った。具体的に言えば、ヴィヴェイロス・デ・カストロ、ラトゥール、ストラザーン、ジェル、ヘナレ、ホルブラードらの研究の中心にある「他者の現実を存在論的差異として認め、あるがままに受け止める」というテーゼに対し、警鐘を鳴らした。つまり彼らの研究には「人類学者」と「フィールドの人々」は出てくるが、これまで人類学の屋台骨であった「比較」という視点が欠如しているのである。 1960年代に盛んに行われた親族の比較研究は、「分類」としては成功しなかったが、それでも人類学者が個別社会の外部に立つという認識は共通して有していた。その立脚点を捨象することは、学問的営為として積極的に評価できるものではないという主張を行った。 こうした理論的考察と並行して、日本でも調査を行った。昨年度同様、東日本大震災で家を追われ、避難した方々にインタビューを行い、現在の状況と課題、これからの展望などを聞き取った。第一次産業に携わらない方々にインタビューを行ったという点も考慮されるべきであるが、放射能リスクという観点からみると、現在はそれほど差し迫った状況でゃないように思われる。つまり、震災当時ほど、食料や水に関して特別な配慮をしているわけではないということが明らかになった(北茨城市での調査より)。ただ一方で、避難した場所から、元の土地へ帰還することに関しては、さまざまな意見を聴くことができた。家の購入や子供の学校の問題、そもそも福島に帰ることについて、彼らの意見は決して一枚岩ではなく、今後もより詳細な調査が求められる。 平成29年以降、こうした理論的考察と、現地調査をうまく整合させていく必要があると思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初予定の海外調査は遂行できなかったものの、ヴァヌアツに関する論文を刊行することができた。また北欧の家とエージェンシーに関する論文も執筆することができた(刊行は平成29年度の予定)。よって、研究課題全体としての進捗状況は、概ね当初通りであるといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は海外調査を行う予定である。また5月には、エージェンシーの議論を発展させた「存在論的転回」に関する批判的考察を研究会にて発表する。年度後半はその議論を深化させ学術論文として執筆し、学会誌等に投稿する予定である。
|
Causes of Carryover |
当初予定していた海外調査を遂行できなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に、より長期の海外・国内調査を遂行する。
|