2018 Fiscal Year Research-status Report
在宅ケアにみる家の記憶とエージェンシーに関する文化人類学的研究
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15K03043
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
福井 栄二郎 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (10533284)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 家 / エージェンシー / 日本 / スウェーデン / ヴァヌアツ / 記憶 / 比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、日本で集中的にフィールドワークを行い、可能な箇所から文章化し、論文として公にした。また研究課題に関連する書評を2本、短報を2本、論文翻訳を1本、執筆した。 論文に関しては、地方都市に暮らす刑余者にインタビューを行い、その家(home)や親密圏(intimate sphere)との関連を考察した。彼らは家から引きはがされて刑務所に服役し、また刑期を終えた後も自宅や出身地に戻らず、刑務所のあった地方都市に暮らす傾向がある。また一人で仕事と住処を探すが、犯罪を犯したという「過去」を隠すことが多いので、必然的に他者との関係は希薄になり、孤独に陥りやすくなる。つまり彼らの再犯防止やケアを考えるにあたっては、「homeとしての家」あるいは「親密圏」の形成が急務であると提言した。またこれまで「地域社会」というのは社会的な領域であると考えられていたが、彼らの感じている疎外感などを考えると、それでは不十分で、「地域」とはそれ自体が親密圏であり、「家のようなケア空間」として捉える必要性があるのだと指摘した。 また国内で移住福祉に関する予備的調査も行った。現在「ひとり親のためのI・Uターン」が盛んになりつつある。人口減少に直面した中山間地域の自治体にとって、移住者を確保することは死活問題である。他方、都市部に暮らすひとり親は生活があらゆる面で困難を感じている。つまり、家や仕事などを提供することで、彼女らひとり親を移住可能な「ターゲット」として捉えていることになる。これまでリタイアした高齢者や自然愛好家が移住対象者として考えられてきたが、ここにきて、移住と福祉の親和性について考える必要が生じてきた。彼女たち一人親にとって、地域の親密性や家の確保は重要な懸案事項であり、また彼女たちのケアを考えるときの重要なポイントとなる。今後も継続的な調査や研究が必要となるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は家庭の事情や体調の問題もあり、当初予定していた調査や研究に着手できなかった。 それでも論文1本、書評論文2本を執筆できたことに鑑みると、「概ね順調に進展している」と判断してよいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、取りまとめとして英語論文を執筆する。可能であれば、国内での調査を行う。
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Causes of Carryover |
本年度、家庭の事情と健康上の理由で、研究が一時期滞り、また海外調査にも行くことができなかった。こうした背景もあり、研究の遂行とまとめをおこなうため、次年度への繰り越しを申請した。 期間延長にあたって、新たに請求した予算はないが、本年度、使用しきれなかった残額519,520円に関しては、翌年、調査等で使用する予定である。
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Research Products
(3 results)