2015 Fiscal Year Research-status Report
日本人の教会から日本の教会へ:東北被災地のフィリピン人カトリックの活動を端緒に
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15K03053
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
寺田 勇文 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (20150550)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | カトリック教会 / フィリピン人 / 移民 / 東北 / 宗教変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度には、2011年以来、継続して調査を進めている東北地方、とくに岩手県大船渡市および陸前高田市におけるフィリピン出身者のコミュニティについて、インタビューを中心にフィールドワークを行った。カトリック大船渡教会については継続的に教会の儀礼、行事を観察した。ほぼ同様のフィールドワークを山形県のカトリック新庄教会のフィリピン出身者コミュニティについても行った。それ以外に一ノ関市の一ノ関教会等におけるフィリピン出身者のためのミサ等を見学した。 大船渡教会については、東日本大震災以後すでに5年の月日が経過し、震災直後に同教会を中心として誕生したフィリピン出身者の集まりは、PAGASA(フィリピン語で「希望」の意味)というグループに成長し、大船渡市と陸前高田市で暮らすフィリピン出身者(さらに少数だがチリ、インドネシア、中国等の出身者)の共同体として機能していることが理解された。 大船渡教会は、震災以前には日本人信徒数およそ110人を数える小さな教会だったが、震災後、PAGASAの活動が進むにつれて、フィリピン出身の女性たちとその子どもたちが教会に姿をみせるようになった結果、現在では信徒数190人をこえるまでに増加している。震災後にふえた信徒のうちの半数はフィリピンの女性たちで、残る人数はかれらと日本人の夫との間に生まれた子どもたちである。 教会の信徒数が変化するにつれ、同教会におけるミサのあり方も部分的に変わってきた。日曜午前のミサは日本語で行われているが、ミサのなかで捧げられる主の祈りは、まず全員で日本語で唱えられた後、フィリピン語で歌うようになり、また、月に一度は午後、英語・フィリピン語によるミサが行われるようになった。こうした変化は日本各地のカトリック教会で近年見られるようになりつつあり、「日本人の教会から日本の教会へ」と変容する第一歩と理解される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画をもとに研究は順調に進んでいると考える。計画では、東北のいくつかの教会に加えて、関東、とくに東京大司教区の教会(東京都および千葉県に所在)、さらにカトリック高松教区に属する高知の中村教会についても初年度からフィールドワークを行う予定であった。 同教会は高知県の西の端の四万十市にあり、30年以上前からフィリピン出身者の信徒が増え、とくに英語またはフィリピン語のミサを設定することなく、フィリピン人も日本人も日本語ミサに出席している。現在、信徒会長にはフィリピン人が選ばれており、また担当司祭は外国人というユニークな教会である。中村教会の事例は本研究においては、大都市圏から遠く離れた地方における教会共同体であることから、「日本人の教会から日本の教会へ」の移行期の諸問題を考える上で、貴重なデータを提供してくれると考えるが、司祭の転任などのため、2015年度中に同教会を訪問することはできなかった。これについては2016年度の優先的な課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度、2017年度には、上述のように四国の中村教会をケーススタディの対象に加えるほか、可能であればカトリック京都教区の教会でフィリピン人と日本人、その他の外国籍の信徒が共同体形成をすすめているところについても調査を進めたい。そうしたフィールドワークの一方ではカトリック教会の公式の立場からみた教会論、共同体論等についても知見を深めるとともに、東アジアの他の地域の事例(韓国、香港、台湾等)についても比較のためのデータを収集したい。 また、2016年度にはフィリピンの学会、および米国で開催される米国宗教学会において、研究成果の一部を発表する予定である。
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Causes of Carryover |
2015年度末に調査のための国内出張(四国)を予定していたが、先方の事情で取りやめにしたため、国内旅費1回相当分が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度のできるだけ早い時期に、予定されていた調査のために出張する。
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Research Products
(1 results)