2015 Fiscal Year Research-status Report
メキシコ地方都市の「脱伝統的景観」と"旅的"居住観に関する学際的研究
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15K03060
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
牧野 冬生 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究センター), 招聘研究員 (50434387)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 米墨移民 / 戦略的都市開発 / 想像的伝統 / 創作的伝統 / “旅的”居住観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の初年度にあたる平成27年度の研究成果は、以下の通りである。 平成27年度は、8月-9月にかけてフィールドワークを実施した。フィールドワークによって、各問題系における論点と問題点を整理した。1) 地元住民の戦略的都市開発「想像的伝統」の形成プロセスについては、行政へのインタビューを実施することで、移民と地元住民の協働性、移民の帰国と故郷送金という経済的な側面、さらに行政を担う政党の政治的側面についても把握することが出来た。2) 大規模郊外団地を国内移民が住まいながら更新する「創作的伝統」については、創作のベースとなる低所得者向け住宅の成立、歴史、販売方法、購入プロセス等について、官民の両面から聞き取り調査を行った。そこでは、1960年代後半からはじめる大規模工場による個別的な住宅支援から、政府を主体とした公的な住宅支援政策への転換等の歴史的側面と共に、約50年という時間を経た実際の住宅地の変容も把握することが出来た。 本研究の特徴は、移民研究における歴史的調査と人類学的な参与観察に加えて、都市景観の成立と近年の都市変化に関わる空間的・物質的な要素の踏査調査という学際的な側面である。中心と郊外という二つの方向からフィールド調査を行って、伝統性を逸脱しながら急速に変容しているメキシコ地方都市の「脱伝統的景観」の特徴を把握できた。平成27年度の研究成果によって、「“旅的”居住観」の理論化と考察の土台となる一次資料形成に繋げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の各課題における進捗状況は、以下の通りである。 1) 米墨移民の観光一時帰国を誘引する地元住民の戦略的都市開発「想像的伝統」の形成プロセスについては、複数のインタビュー調査を実施することが出来た。その中では、地元住民の戦略的都市開発を、都市開発の担い手である行政、政党だけでなく郷土史家や地元住民の役割等を認識することができた。また、移民の個別的な伝統回帰現象が、どのように観光都市戦略と関係して都市景観を更新しながら移民誘導政策に繋がっていったのかについて、多面的に考察することが出来た。 2) 外資企業誘致に伴う大規模郊外団地を国内移民が住まいながら更新する「創作的伝統」の実態については、企業誘致活動と団地建設のプロセスの把握を試みた。特に企業誘致に伴って発生する国内移民については、故郷の住居、企業団地、都市部の3カ所を移動しながら暮らす生活実態を把握することができた。 3)「脱伝統的景観」の基底にある「“旅的”居住観」の理論化については、本研究で提唱する「脱伝統的景観」の二つの軸として「想像的伝統」と「創作的伝統」に関わる資料を収集し、理論的な位置付けについて整理した。特に、都市景観に関わる議論は、人文社会科学だけでなく、建築や都市計画とも関わる分野であるため、学際的な視点の導入を試みた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の2年目にあたる平成28年度に向けては、平成27年度の研究成果と抽出した課題を踏まえた上で2度目のフィールドワークを実施して各課題の一層の深化をはかる。また、平成27年度の研究成果を基に、平成28年度においては米国応用人類学会(Society for Applied Anthropology)とラテンアメリカ研究学会(Latin American Studies Association)での研究発表に繋げる。 また、平成27年度のフィールドワークにおいては、メキシコ社会人類学高等研究所との連携の中で、外資企業誘致に伴う大規模郊外団地を国内移民が住まいながら更新する「創作的伝統」の実態について、メキシコで第二の経済規模を持つヌエボ・レオン州モンテレイの事例を見るべきとの指摘があった。当初アグアス・カリエンテスを主とした調査を予定していたが、現地でのインフォーマント確保や外資企業誘致による大規模郊外団地建設の規模等も想定して、大規模郊外団地の把握とってより適切な地域への追加・変更を想定している。
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Causes of Carryover |
フィールド調査の謝金については、当初想定していた協力者が独自の資金を確保することが可能となり、支払いの必要が軽減したため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度の仕様計画については、2度の国際学会の発表を行い、またメキシコでフィールドワークを予定しているため、主に旅費としての使用を想定している。
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