2016 Fiscal Year Research-status Report
メキシコ地方都市の「脱伝統的景観」と"旅的"居住観に関する学際的研究
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15K03060
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
牧野 冬生 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究センター), その他(招聘研究員) (50434387)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 米墨移民 / ノスタルジア / 一時帰国 / 想像的伝統 / 創作的伝統 / 脱伝統的景観 / アシエンダ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の2年目にあたる平成28年度の研究成果は以下の通りである。 平成28年度は、前年度に抽出した問題点を踏まえて上で、3つの各テーマの一層の深化をはかった。昨年度のフィールドワークの精査と文献調査を進め、9月にメキシコにおいてフィールドワークを実施した。1) 米墨移民の観光一時帰国を誘引する地元住民の戦略的都市開発「想像的伝統」の形成プロセスにおいては、初年度の地方都市行政へのインタビューの結果を踏まえて、本年度は地元住民と墨米移民の「想像的伝統」の基底となる「アシエンダの建築意匠」に焦点を絞り調査を実施し、住宅デザインから見るノスタルジア形成プロセスについて把握することが出来た。2) 外資企業誘致に伴う大規模郊外団地を国内移民が住まいながら更新する「創作的伝統」の実態については、誘致された外資企業に関する社会保障(年金、医療サービス、住宅ローン契約)整備に関わる規制や実際の従業員の住居についても把握することが出来た。また、一定の規模を有するメキシコ企業や公務員等についても、外資企業と同様に住宅ローン契約を可能とする雇用安定システムが見られた。こうした雇用の安定と定住の長期化によって、“ローンを組んで住居を建てる”、“建て売りを買う”といった新たな住居購入のスタイルについても、住民の動向を調査することが出来た。3)「脱伝統的景観」の基底にある「“旅的”居住観」の理論化と考察については、Latin American Studies Association(LASA2016:5月に開催)とSociety for Applied Anthropology(SfAA2017:3月に開催)で研究発表を実施して、理論化に向けて議論を深めることが出来た。本発表の成果については、その一部を『アジア太平洋討究』の中に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の各課題における進捗状況は以下の通りである。 1) 米墨移民の観光一時帰国を誘引する地元住民の戦略的都市開発「想像的伝統」の形成プロセスにおいては、「アシエンダの建築意匠」に焦点を絞って調査を実施したが、その過程で地元住民の戦略的な伝統イメージや移民自体が米国で断片的に享受する“メキシカン”や“ヒスパニック・アメリカン“としての言説など、「想像的伝統」を形成する複数の要素についても把握することができた。それによって、「アシエンダの建築意匠」に見られる特徴を多角的視点から分析することが出来た。 2) 外資企業誘致に伴う大規模郊外団地を国内移民が住まいながら更新する「創作的伝統」の実態については、大規模団地がライフステージの変化に伴って更新されていく実態について、成立年の違う複数の大規模団地を調査することが出来た。個人の経済的・社会的背景の違いによって、住居は配置、増築と改築の頻度、建設方法、意匠などが異なるため、インテンシブな個別調査から創作の実態を把握することが出来た。 3)「脱伝統的景観」の基底にある「“旅的”居住観」の理論化と考察については、まず「脱伝統的景観」の精査を行い、「想像的伝統」を体現する場所として、(1)教会と広場を中心とした歴史的な中心地(セントロ)を観光の主体としている都市、(2)農村(ランチョ)のアシエンダといった都市郊外を観光の主体としている都市、(3)ローカルな生活群自体を観光の主体としている都市、(4)自然や遺跡を観光の主体としている都市、の4つの区分を行った。「創作的伝統」については、慣習への対抗的折衷主義としての住宅雑誌(米国)などのメディアの影響についても考察することで、理論化へ向けて新たな視点を導入することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の3年目にあたる平成29年度は、本研究計画の最終年度にあたり、各研究課題を遂行すると共に、補完すべき資料の収集に努める。研究報告書の作成に重点が置かれることになる。また、今までの研究成果を基に、英語ジャーナルへの論文投稿を実施する。同時に、研究を実施したフィールドへの還元として、西語での研究成果の公表も実施したい。 墨米移民、外資企業誘致に伴う国内移民、地元住民の3者を主体とする地方都市の「脱伝統的景観」という現象は、マクロ的視点においては雇用を移民と海外資本に依存するメキシコ経済政策に起因する。この両方の雇用の前提となるのは、頻繁で継続的な移動を容認する生活形態である。しかし、現在の米国政権下においてはこの「頻繁で継続的な移動」を可能とした移民政策が大きく変更されつつある。この制限された環境下において、墨米移民の日常的な“旅的”生活がどのような影響を受けているのかについては、平成29年度のフィールドワークで追加調査する必要があると考えている。また、米国政権下の北米自由貿易協定(NAFTA)の再検討に向けた政策は、外資企業誘致の減少を促進し「脱伝統的景観」を形成する実際の住居構築へも影響を及ぼす可能性がある。 こうした新たな政治環境変化も踏まえ、また長期的な人の移動といった視点を含めて、現在の日常的な“旅的”生活を植民地時代のランチョ(アシエンダ)とセントロ(宗教施設)を結ぶ伝統的生活の延長線上に捉える視点の有効性についても考察し、「“旅的”居住観」の理論化に向けて研究を進める。
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Causes of Carryover |
Society for Applied Anthropology(SfAA2017)の年次学会開催が2017年3月後半であり、当該経費については次年度に精算する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の使用計画については、メキシコでのフィールドワークを予定しているのに加えて、英語ジャーナルへの論文投稿を予定しているため、主に旅費と翻訳校閲費の使用を想定している。
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