2017 Fiscal Year Research-status Report
メキシコ地方都市の「脱伝統的景観」と"旅的"居住観に関する学際的研究
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15K03060
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Research Institution | Komazawa Women's University |
Principal Investigator |
牧野 冬生 駒沢女子大学, 人文学部, 特任准教授 (50434387)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 米墨移民 / 観光一時帰国 / 想像的伝統 / 創作的伝統 / “旅的”居住観 / 脱伝統的景観 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の3年目にあたる平成29年度の研究成果は、以下の通りである。平成29年度は、前年度までの2年間のフィールドワークの成果を踏まえた上で、補完すべき資料の収集に努め、8月にメキシコで追加フィールドワークを実施した。具体的な成果は、研究テーマ別に以下の通りである。 1) 米墨移民の観光一時帰国を誘引する地元住民の戦略的都市開発「想像的伝統」の形成プロセスにおいては、メキシコの地元住民が移民を誘引する戦略的伝統イメージと、移民が米国内で断片的に享受する“メキシカン”や“ヒスパニック“といった言説を、新聞や雑誌、WEBサイトといった複数のメディアから把握することができた。 2) 外資企業誘致に伴う大規模郊外団地を国内移民が住まいながら更新する「創作的伝統」の実態においては、企業への安定的雇用と定住化によって、今まで現金決済によって徐々に住まいを構築するスタイルから、“ローンを組んで住居を建てる”、“建て売りを買う”といった新たな住居購入のスタイルへ変化する実態について把握した。また、標準的な外観の大規模団地が、住民(移民)のライフステージの変化に伴って更新されていく様を捉えることが出来た。 3)「脱伝統的景観」の基底にある「“旅的”居住観」の理論化と考察においては、LASA(Latin America Studies Association)とSfAA(Society for Applied Anthropology)で発表した成果を踏まえて、メキシコ人類学高等研究所の研究者と議論を深めることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の各課題における進捗状況は以下の通りである。 1) 米墨移民の観光一時帰国を誘引する地元住民の戦略的都市開発「想像的伝統」の形成プロセスにおいては、平成28年度がアシエンダの建築意匠に焦点を絞ったのに続いて、本年度は「想像的伝統」をメキシコの地元住民が移民を誘引する戦略的伝統イメージを含めた全体から分析することが出来た。それによって、個人的な言説が、複数のメディアからどのように影響を受けているかについても把握することが出来た。 2) 外資企業誘致に伴う大規模郊外団地を国内移民が住まいながら更新する「創作的伝統」の実態においては、まず郊外団地の標準的な外観デザイン自体が上記の「想像的伝統」から一定の影響を受けている様が看取できた。その外観デザインは、基本的にはフラットで無味簡素であるが、一部にはタイルや意匠にメキシコのノスタルジックなイメージを喚起させるものもあり、創作的伝統の土台となる意匠の変化にも留意することが出来た。 3)「脱伝統的景観」の基底にある「“旅的”居住観」の理論化と考察においては、前年度に行った「想像的伝統」を体現する場所の4つの区分(①セントロを中心とする歴史的観光を主体とした地区、②ノスタルジックな農村を観光の主体とした地区、③現状の生活を見せる観光地区、④自然や遺跡の観光に依存した地区)のそれぞれにおいて、“旅的”な意識が強い若年層(米国生まれの次世代移民)の観光一時帰省と複数居住を実践する移民(第一世代移民や一時的な出稼ぎ移民)の間で、“旅的”居住観の意味が異なる可能性についても考察し、議論を深めることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の3年目にあたる平成29年度は、本来は本研究の最終年度であり研究総括にあたる年であった。今回、補助事業の目的をより精緻に達成するために、補助事業の延長を申請した。平成30年度の研究推進概要は以下の通りである。 本研究の目的は、墨米移民、国内移民、地元住民の3者が主体となっているメキシコ地方都市の「脱伝統的景観」の解明にある。また、「脱伝統的景観」の基底として「“旅的”居住観」の理論化は、本研究の重要な目的のひとつであった。一方、現在のアメリカ政権下の急速な移民政策の変化によって、本研究で前提としてきた「頻繁で継続的な移動」が制限される現状が浮き彫りになった。補助事業の延長に伴い、本年度は「脱伝統的景観」に対する米国移民政策の影響も考慮する。また、メキシコで追加フィールドワークを実施し、研究成果の海外論文誌への投稿も予定している。 今までの研究成果を踏まえて、本年度は補助事業の目的をより精緻に達成させる。
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Causes of Carryover |
(理由) 基盤Cの延長に伴い、追加フィールドワークへの資金を予定していたため。 (使用計画) 平成30年度の使用計画については、メキシコでの追加フィールドワーク(外国旅費)を予定しているのに加えて、海外論文誌への投稿のための翻訳校閲費の使用を予定している。
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