2016 Fiscal Year Research-status Report
恥の比較民族論-南アジア周辺領域における排他的共同性と社会的絆-
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15K03064
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
橘 健一 立命館大学, 政策科学部, 非常勤講師 (30401425)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 和之 阪南大学, 国際観光学部, 准教授 (40469185)
山本 達也 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (70598656)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 震災 / 生活スタンダード / 墜ちる経験 / 積極的 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年ネパール中部大震災の影響で、当初予定していた調査の実施が難しくなっているが、昨年度に引き続き、大震災に関連した「恥」の問題を追及した。そのなかで被災者を支援しない「恥」だけでなく、復興できない「恥」の問題が浮かび上がってきた。被災による生活スタンダードの低下のなか、その「恥」とどう向き合っていくのかが問題となる。 これまでの研究で、その「恥」を避けがたい「運命」や「神による試練」など災因論として捉える解釈のあり方が指摘されてきたが、「低下」と捉えられがちな生活の変化を、むしろ「合理的」などと考え直す新たな解釈のあり方を見いだすことができた。 ネパールの山村では、一般に石造りの家屋がスタンダードとして認められており、木造の家屋は低いレベルのもので、「恥ずかしい」ものとされてきた。そのため、収入の低い世帯に対する開発プロジェクト等による支援で、木造家屋から石造家屋への転換が進められた。だが、それが結果的に地震の被害を広げることになってしまった。そうした状況を理解した山村の村人たちは、むしろ従来の「粗末」な木造の家屋のほうが、安全で合理的、あるいは復興が容易だと考え、ひび割れの入った石造の家屋を木造に建て替え始めたのである。このような「墜ちる」といった経験が、反転し、積極的な意味に転じる様態を、今後さらに追求していく。特に、市民社会から「墜ちる」経験、民族、カーストという枠組みから「墜ちる」経験、親族的な人間関係から「墜ちる」経験が、どのように反転し、積極的な意味を持つようになるのか調査研究を進め、それらの理論的な位置づけを考察していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
震災の影響で物理的、社会的アクセスの問題が生じ、全体としてフィールドワークの実施が計画通りに進んでいないので、次年度は、充実させていく予定である。 理論的な考察は、文献研究もおこないながら順調に進行している。「恥」と「墜ちる」経験との関わりを、アクターズネットワークセオリーや存在論的な議論を参考に、再考を進めている。 また、父系社会と母系社会における交換の持つ意味の違いに注目し、それぞれのなかで「遠慮」の記号論的位置づけも検討中である。 次年度は、そうした成果をまとめあげ、発表の準備を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、研究代表者、分担者ともにネパール、インドなどで夏、冬のいずれかに2-5週間ほどのフィールドワークを実施、学会発表も積極的におこなっていく。 また、論文発表の準備も進めつつ、代表者、分担者間のコミュニケーションを密にして、共著の可能性も検討する。 さらに日程を調整し、研究会や共同調査を実施、全体の議論のまとめ作業をおこなう。
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Causes of Carryover |
研究代表者、研究分担者ともに、ネパール中部大地震の影響などにより、ネパール、インド等で予定通りフィールドワークを実施することができなかった。そのため、旅費を中心に予算の消化ができず、次年度使用額が生じる事態となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、ネパールやインドなどでのフィールドワーク、国内外の学会発表を積極的におこない、調査研究を充実させる。また、成果発表に必要な機材の購入、発表の準備のための予算も消化する予定である。
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Research Products
(18 results)