2016 Fiscal Year Research-status Report
現代アメリカの法源・法過程・法思考――制定法解釈論とコモンローをめぐって
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15K03073
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
会澤 恒 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (70322782)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椎名 智彦 青森中央学院大学, 経営法学部, 准教授 (00438441)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ法 / 法過程 / 判例法 / 政策形成 / 司法審査 / 制度的適性 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 実定法面からの検討では、特に保守派の論者が強調する憲法解釈方法論である原意主義を取り上げて検討を加えた。政治的保守の陣営にとって、原意主義と、統治における政治部門の重視とそのコインの裏側としての司法消極主義、および社会的保守の価値指向とは予定調和的なものとして把握されている。しかし、社会的保守の望む社会状態を目指して違憲判断を為そうとすると、この予定調和が崩れ、原意主義的アプローチが限界を呈することを指摘した。 また、現実政治の変動と司法部との連関についても検討を行った。司法もまたデモクラシーに基盤を置くという体制の下では、政治部門の変動が裁判官人事という形をとって直接のインパクトを及ぼす。しかし、「理由付けを伴った判断」という裁判作用の形式は、一定の自律性を基礎付ける。 2 理論面では、アメリカ法学におけるプロセス的視座の意義について思想史的観点から検討を深めた。プロセス的視座を導入したリーガル・プロセス学派は民主的政治過程を重視する司法消極主義と世俗的自然法論とが交錯するところに制度的適性という分析枠組を提示したが、ウォーレン・コートのリベラルな司法積極主義によっていったん行き詰まることになった。しかし、イリィを嚆矢とし現在まで連なる次世代の理論家は、制度的適性という視座を推し進め、政治過程の限界の認識と前提条件の確保という側面に司法の独自の意義の可能性が見出されている。 3 以上の諸点はいずれも、(そこに留まるものではないが)憲法分野をパラダイムとして議論がなされている。本研究は憲法分野に限定しないアメリカ型法観念を定式化することを目指しているが、逆説的にこの分野が議論をリードしていることが確認された。その意義の検討は次年度の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1 当初計画では平成28年度に現地米国でのヒアリング調査を予定していたが、関係者の日程が合わなかったため、28年度中の実施ができなかった。平成29年初夏に実施する方向で調整中である。 2 会澤・椎名が実定法面・理論面それぞれの現時点での考察について中間的試論として論考を執筆した。しかし、掲載予定の書籍につき、平成28年秋の刊行を予定していたが、編集上の都合により刊行が遅れている。だが、既に校了し、平成29年4月には刊行できる予定である。 3 平成28年度の検討では、法観念・法思考をめぐる米国の議論状況が憲法分野をパラダイムとしていることが確認された。本研究は憲法分野に限定しないアメリカ型法観念を定式化することを目指していることから、かかる議論の偏在の意義の検討が課題として浮かび上がった。
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Strategy for Future Research Activity |
1 (A)制定法解釈論及び(B)コモンローという実定法レベルでの議論についても検討を継続するが、昨年度は実施できなかった英米の研究者との意見交換の機会を改めて持ち、ネイティブの法律家の実感に即した理論構築を目指す。 2 (C)デモクラシーと政策論と法理論との関係の構造の解明をさらに深める。法システムのデモクラシー基底性と政治システムに還元されない自律性との緊張関係を理論的に検討しながら、これまでの実定法レベルの検討との摺り合わせを行う。この点については、椎名が従前より、松尾陽准教授(名古屋大学)ら、この分野に関心を有する若手・中堅の法理学者と研究上の接点を有しており、会澤も議論に加わることで多角的な検討を加える。 3 実定法面と理論面との知見を統合し、現行米国法におけるデモクラシーおよび政策論の実践を適合的に説明できる理論を提出する。さしあたり、それぞれに異なったデモクラシー的基盤を有する諸機関が分節し、それらの相互コミュニケーションがアメリカの法システムの構成するものとして理解されている、との見通しを有している。(裏を返すと、個別的な実体ルールは交換可能なものという位置付けとなる。)このような形で米国を法過程=プロセス=(広義の)手続基底的な法観念を持つ法域として描写することは、対比的に大陸法を実体基底的な法観念を持つ法系として位置付けることとなる。比較法学における法系分類論に対しても、異なる観点からの法系分類基準を提出し、一定のインパクトを期待できる。
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Causes of Carryover |
平成28年度の検討を通じて、米国における法源論・法理論の問題が当初の見通し以上に憲法分野に偏在していることが浮き彫りになった。法分野に限定されない議論を目指す本研究としては、その理由・理論構造について先に見通しを得ておくことが研究の効率的遂行に資すると判断した。このため、当初計画では平成28年度に現地米国でのヒアリング調査を予定していたが、対象者の再検討等が必要になったことから、関係者の日程が合わなかったため、28年度中の実施ができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に実施できなかった米国でのヒアリング調査を29年初夏に実施する方向で調整中である。
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