2016 Fiscal Year Research-status Report
中世ドイツの城塞支配権の特質―封建的支配構造との関連を考慮して―
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15K03076
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
櫻井 利夫 金沢大学, 法学系, 教授 (80170645)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中世盛期 / ドイツ / 城塞支配権(圏) / シャテルニー / 罰令権力 / 荘園制 / アムト制 / 地方行政組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
1200年までの中世盛期を対象として、ドイツ帝国の貴族家系の城塞を考察の対象として選び出し、城主たる貴族が城塞の周囲でどのような支配権をもっていたのかを当時のドイツ帝国の封建制的支配構造と関連させて研究してきている。Ⅰ.この場合に、1200年以前について所領台帳等の証書集を伝承してきた唯一の俗人貴族、上部バイエルンのファルケンシュタイン伯の4つの城塞について、その周囲に構築された支配権は城主の荘園に対する支配権のほかに、これを超えてそれ以外の住民に対しても行使される罰令権力(バン権力)、つまり裁判権その他の強制権力等から構成されていることを究明することができた。したがって、このような城主の支配権はフランス史の所謂シャテルニー=城主支配圏と同等なものとして把握しうることも明らかにした。 Ⅱ.この伯は封建法上の権利として、20名の主君から2,600フーフェの膨大なレーエン財産(知行)を保有し、さらに50名を下らない家臣をも抱え、その一部を城塞守備の任務に就かせていたことも解明された。 Ⅲ.このような城主の支配権(城塞支配権)は、支配史的に見て、領主直営地型荘園制が解体し地代荘園制に移行するという重大な転換に対処するために、新たに城主へ転身したかつての荘園領主が、城塞を中核としつつその周囲に地代荘園制から構築したより広領域的な支配区として捉えられることが判明した。Ⅳ.さらにこの支配区は史料上officium(ドイツ語でAmt=アムト)と呼ばれたこと、領邦君主の地方行政組織=アムト制の構造が城塞支配権の構造が似ていること、このアムト制も多くの場合に城塞を中核とすることなどから、領邦君主の地方行政組織=アムト制はしばしば城塞支配権(圏)を基礎として発展したことも究明された。 Ⅴ.最後に、領主直営地型荘園制→シャテルニー制→領邦君主の地方行政組織という発展線を構想することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に従って、城主の封建制の中における位置や地位が具体的に究明されると同時に、城塞の周囲において城主が構築した支配権(城塞支配権)の内部構造を、これまた原典史料に即して解明された。さらに支配史の視点から、城塞支配権(圏)は、領主直営地型荘園制→シャテルニー制→領邦君主の地方行政組織という発展線のなかに位置づけて考察する必要があることも明らかとなった。 以上の研究成果は、正に申請者が研究を通じて解明することを目的とした事柄であり、所期の目的は完全にとまでは言えないとしても、相当程度に達成されたといえよう。このような研究成果を生んだ論稿は、上記のファルケンシュタイン伯の証書史料に即して達成されたものであるが、その他神聖ローマ帝国の全体を対象にして「城塞の附属物」の視角から、帝国における城塞支配権(シャテルニー)の一般的な存在を考察した論稿、さらに北東ドイツにおけるヴェルフェン家の領国について城塞支配権がしばしば領国の地方行政組織(アムト制)の基礎となったことを考察した論稿と併せて、一書に纏めて出版される運びとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
神聖ローマ帝国の典型的な貴族城塞、つまり皇帝、国王、その他の諸侯の城塞、特に例えば12世紀前半期から13世紀半ばまで君臨し帝国の最盛期を現出したと謳われるシュタウフェン王朝の本拠城塞であるシュタウフェン城塞等について、あるいはまたファルケンシュタイン伯に約半世紀遅れて13世紀前半期に、所領台帳を残した帝国家人パッペンハイムPappenheim家の城塞についても、シャテルニーとして把握しうるかどうかを考察すべく、関係史料と文献を収集し、検討を進める計画を立てている。結局のところ、このようにして可能な限り多くのドイツの城塞について、具体的な城塞の例に即してシャテルニーとして把握しうることを証明することを研究目標としている。
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Causes of Carryover |
ファルケンシュタイン伯の城塞支配権に関する研究の内容を一層充実させ完成度を高めると同時に、従来の既発表論文にも修正を加え、これらの諸論文を併せて一書として纏め公刊することに精力を集中し、そのためにドイツでの文献調査収集ができなかったため。さらに発注した物品(図書)が年度内に入荷しなかったという事情が加わるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
時間的に可能ならば、ドイツで文献の調査収集を行うと同時に、国内の大学・研究機関でも文献の調査収集を行う。また必要な物品(特に図書)の収集を行う。
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Research Products
(2 results)