2016 Fiscal Year Research-status Report
一般意思を抽出し正義にかなった法を定めるための民主的立法過程に関する歴史的研究
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15K03084
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
波多野 敏 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (70218486)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 法制史 / 西洋法制史 / フランス法制史 / フランス革命 / 一般意思 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に引き続きルソーの「一般意思」の観念について検討を加え、さらに人権宣言に見られる「一般意思の表明としての法律」という考え方、また、こうしたタイプの法律によって自由の限界を定めるという考え方について検討した。「一般意思の表明としての法律」は、すべての人の意思に基づいて、すべての人に同じように適用されることとなっており、こうした「法律」によって「自由」の限界を定めることは、自らの意思によって自らの行動を律するということにもつながら、必ずしも他者からの拘束とはとらえられない。いわゆる「法律の留保」的な発想ではないことが明らかにされた。 しかし、ルソーにおいては「一般意思」は抽象的に「すべての人」の意思に基づくものと把握されているがと、人権宣言においては、立法に関わることができるのは「すべての市民」であるとされ、外国人や子供、女性等がこの「市民」からは除かれる。本年度は、この点についても、チュルゴ、コンドルセ、シェイエース、またロベスピエール等革命期の政治理論家たちの議論の概要が検討された。チュルゴ以来、また革命期の議論は、基本的には一般意思の基礎になる自立した意思を持っていることが政治的権利を持つことの基礎と考えられ、こうした意思を持った者をどのように考えるかということが問題となり、ここから政治的権利を持つ「市民」たる資格が考えられる。しかし、男子普通選挙制を主張したロベスピエールの議論は、他の論者と問題を共有した上での議論ではなく、単純にすべての人とすべての市民を同一視するだけの議論であり、他の論者とはやや異質な面があることも明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には、ルソーの「一般意思」の観念について検討を進め、平成28年度には、現実の政治制度が構築される際の、政治家たちの議論が検討された。ここまで、ルソーの「一般意思」の観念と、これを基礎とした革命期の政治家たちの市民権に関する考え方の概要についてはおおむね予定通り検討は進められている。 次年度以降は、具体的に選挙制度などがどのように構築されていくかを、引き続き理論家たちの著作や、憲法制定過程の議会での議論などを基に検討を進めてゆく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き、ルソーや革命期の政治家たちの議論を検討するとともに、革命期からナポレオン帝政期までの憲法制定過程における議会の議論を調査・検討してゆく。また、国立文書館等に残されている文書から、とくに選挙集会の記録などを調査し、より具体的な立法プロセスを検討する。こうした検討を行うことで、1791年憲法、1793年憲法、1795年憲法さらにはナポレオン体制を生み出した1799年の憲法を巡る試行錯誤のなかで、「一般意思の表明としての法律」という観念が、現実的な立法プロセスのなかでどのように現実化し、また現実化しなかったのかという点を明らかにしてゆく。
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Causes of Carryover |
平成28年度は購入資料が少なかったこと、また国内旅費の支出がなかったことから、全体の支出が予定より少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、資料調査、資料の購入以外に、学会報告が予定されており、このための旅費に支出する。また、フランスでの資料調査も行う予定である。
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Research Products
(1 results)