2015 Fiscal Year Research-status Report
法治国家的警察法体系の再構築に関する研究-警察法2条による警察実体法形成の可能性
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15K03099
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
米田 雅宏 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (00377376)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 警察法 / 行政法 / 警察法二条 / 法治国家 / ドグマーティク |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、戦前・戦後の警察法制の変遷を、主に警察実務の視点から実証的に調査することを課題とした。この初期調査において明らかとなったのは、大要以下の通りである。①戦前の警察法秩序は、内部規範たる行政警察規則を中核としつつ、大日本帝国憲法制定以前より存在していた各種取締規則と、治安警察法や出版法等から成る法体系を緩やかな形で形作っていた。②しかしこの体系は、(内部規範と外部規範の未分離、明確性原理の不徹底、手続的準則の不存在など)立憲主義ないし法治国家原理に相応しい形式を伴うものではなく、実定的内容が乏しいルールの集合体に過ぎなかった。③このような法の不備・欠陥は、同時期において法治国家的警察法体系を築き上げたドイツのように、行政裁判所による判例の積み重ねによって是正・修正されるようなことはなかった(出訴事項の制限の存在など)。④我が国で期待されたのは、むしろ学者によって主張された条理としての「警察権の限界」の法理であるが、それも現行の実定法規と結びつくものではなかったことから実務上大きな影響力を及ぼすことはなかった。⑤戦後の警察改革により戦前の警察法秩序は解体されることになったが、必要最小限に限定された警察権限が個別法令ごとに分散的に規定されたことで、かえって警察活動を見通しよく統制する法的基準が不鮮明となった。⑥「警察権の限界論」の通用力に陰りが見えると、実務は個別法の積み重ねによって警察法秩序を肉付けしていったが、その立法技術には個別法で規律することの法的・政治的メリットを活かすと言う意味と同時に、包括的な実体的統制の可能性を回避し緩やかな統制のままであることが臨機応変な対応が求められる警察活動にとって合理的であるとする実務的感覚(警察的感覚)も見え隠れしていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、戦前・戦後の警察法制の変遷を主に警察実務の視点から実証的に分析すること、具体的には戦前の警察法理論が実務レヴェルにおいてどのように切断され、また受容されたのかを、警察法制の変遷史並びにその解釈論の展開から明らかにすることを目指すものであったが、立法担当者による法令解説や当時の警察大学校や講習所で使用されていた教科書、『警察研究』『警察学論集』に掲載された実務家による各種論文については、既にある程度収集し終えた。今後は、収集した資料をさらに分析しやすいように年代順にまとめるとともに、実務家の見解と学者の見解それぞれについてその異同が明確になるよう再整理する必要がある。おそらく次年度前半には、ある程度の基礎資料を作成することが可能だろう。もっともこの調査は主に勤務校で行ったものであるため、さらに今後、国立国会図書館への調査結果なども加える必要がある。しかしこれまでの調査の経験によれば、例えば『戦後警察史』などの書籍において、必要となる第一次資料がある程度収められているほか、70年代以降に顕著に現れてきた警察法制の変化や、特に2000年代以降、ストーカー規制法に代表される親密圏内における安全確保の問題に対応しようとする警察実務の実態等についても『警察学論集』などを通じて比較的容易に情報を入手することが可能であるため、当初のスケジュールを大幅に変更する必要はないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、戦後の警察関連立法を、法治国家的警察法体系として統合的に説明する方法論として、ドイツの法解釈実務を支配している「ドグマーティク(Dogmatik)」の機能について研究する予定である。ドグマーティクは、実定法を改変することなく法体系の矛盾を解消し一貫性・単純性を確保する解釈論的営為として、我が国でも多用される言葉ではあるが、実はその母国であるドイツでもその内実が明確でないと評されるなど、しばしば論争の対象とされている。この論争では、過度の体系化による概念法学的思考の残滓が指摘される一方、他方で紛争の事案に即した体系化をさらに展開すべきする見解も提示されている。過度の体系化は、かつて講学上の警察概念を中心とした我が国の警察法理論が陥った問題であり、その扱いについては特に慎重さが求められる。従って本研究では、かつての失敗を反省しつつ紛争の事案に即した体系化の要素も取り入れながら、バランスのとれたドグマーティクの機能を追求することができるかが課題となる。研究上の工夫として、ドグマーティクの重要な機能である体系化の視点を軸に国内治安法制を「安全憲法(治安体制)」として体系的に理解することを試みる Tanneberger 博士(フライブルク大学)を始め、ドグマーティクにつきドイツで緻密かつ詳細な議論を展開しているJestaedt教授(同上)やPoscher教授(同上)にも合わせてヒアリング調査できればと考えている。 また次年度は、社会安全・警察学研究所(京都産業大学)にて「親密圏内事案への警察の介入過程の見える化による多機関連携の推進」(科学振興機構の社会技術研究開発センター(RISTEX)公募プロジェクト)に関する報告依頼を受けているため、これを機にこれまでの研究成果についても整理する予定である。
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Causes of Carryover |
ほぼ計画通り使用したが、資料整理のために雇用したアルバイトへの謝礼金が、資料整理に必要とされる時間を予め正確に見積もることができなかったため僅かな残額が発生した。これは資料整理を特に年度末に集中して行ったことが原因であるが、残額としてはごく僅かなものであることから、ほぼ計画通りに執行できたものと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料整理は特に研究計画初年度に集中的に行うものであったため、今後はより計画的な予算執行が可能と考えている。前年度僅かに残った金額については、次年度の研究計画に係る書籍代として早々に執行する予定である。
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Research Products
(4 results)