2016 Fiscal Year Research-status Report
法治国家的警察法体系の再構築に関する研究-警察法2条による警察実体法形成の可能性
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15K03099
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
米田 雅宏 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (00377376)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 警察法 / 行政法 / 警察学 / 警察権の限界論 / 解釈構成 / 法ドグマーティク / 制御学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目は、戦後分断的に規律された警察関連立法を統合的体系的に把握するための方法論を探るべく、ドイツの法解釈実務に強い影響を与えている法ドグマーティクの機能について検討を行った。連邦憲法裁判所長官であるフォスクーレは、法ドグマーティクを“①プロフェッショナルな法治国家(裁判官、行政官、研究者等)によって定立、議論され、②規範的内容を持った、③互いに一つの関係の中に配置される、④制定法や判例とは関連するが、その表現とは必ずしも一致しない、⑤諸命題の集まり”と説明するが、この法ドグマーティクは、①単なる法テキスト、②法テキストの上で初めて構成されなければならない法規範、③裁判所による具体的事案の決定(判決)、④実践的な適用と無関係な、法素材の理論的描写、⑤法システムの内的関連の中で展開されるのではなく、これまでの法実務との断絶をもたらそうとするような法政策的な提言とは、明確に区別されるものである。その点において、法ドグマーティクは、①(断片的に存在する法規定を)秩序付け・体系化する機能、②これに伴った(法解釈命題の)安定化機能、③(法解釈命題導出の)負担軽減機能、④批判及び継続的形成機能を、その重要な機能として持つとされる。年度後半は、上記のような法ドグマーティクの特徴・機能を踏まえ、我が国の警察法令を学説(理論)が十分に「統合化」「体系化」できなかったことの原因を明らかにした。詳細は、論文で公表予定である。 また本年度は、社会安全・警察学研究所(6月23日、於:京都産業大学)にて「親密圏内事案への警察の介入過程の見える化による多機関連携の推進」(科学振興機構の社会技術研究開発センター(RISTEX)公募プロジェクト)に関する活動のため、「警察と他機関の連携を規律する『規範』-規範学としての警察法学の視点から」と題する報告を行い、実務家や他分野の研究者と意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で特に注目したのは、規範含有率の低い我が国の実定警察法を豊かにするためは如何にして、制定法準拠主義のごとく単純な法テキストに寄りかかるのではなく、またメタ理論・グランドセオリーに過大に依拠することもなく、(法治国家的警察法)規範を提示することができるかどうか、という点であった。実定法を改変することなく法体系の矛盾を解消し、法命題の一貫性・単純性を確保する解釈論的営為(解釈構成=法ドグマーティク)の機能に検討を加えたのは、ドイツ警察法では、ALRに代表される実定法の定めがプロイセン上級行政裁判所の判例と学説の協働作業を経て有意味に“解釈構成”され、これが新たな立法制定に繋がったという経緯があるため、この手法を同じく活用することができれば、実定法の定めを絶対的に重視することなく、また講学上の警察概念を中心とした悪しき体系化により実定法の定めを無視することもない、将来の立法政策に寄与するような解釈体系を示すことが可能になると考えたからである。本年度は、Krueper,Merten,Morlok(Hrsg.), An den Grenzen der Dogmatik, 2010やドイツ・ボンで行われたDogmatikに関するコロキアムの内容を記録したKirchhof, Magen, Schneider (Hrsg.), Was weiss Dogmatik? 2012を精読することにより、上記の研究結果を導き出し、これをもとに、戦前から戦後にかけての我が国の警察法令を学説(理論)が十分に統合化・体系化できなかった原因を明らかにした。本来であればドイツで研究者に対するヒアリング調査を行い、上記のような評価の妥当性について検証する予定であったが(日程の都合上叶わなかった)、上記の視点が明らかになっただけでも、十分に初期の目的は達成できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度は伝統的警察法理論と、実務家が理論を修正しつつ対応してきた実務とを、前年の研究成果として明らかにした法ドグマーティクの手法を用いることよって統合的体系的に把握し、これを警察法2条1項の規範の上に位置づけることで、法治国家的警察法体系の全体像を提示することを目的する。 研究を遂行するに当たっては、「日本警察法制の欠陥」を指摘し、ドイツ警察法理論をベースとして実務の視点から我が国の警察実体法を構築しようとした土屋正三氏(元警察大学校教授)の「警察実体法要綱試案」が、また 2013 年に警察実務家と憲法・行政法研究者が共同で作成し、「警察基本法」の制定を提唱した「『これからの安全・安心』のための犯罪対策に関する提言」(警察政策学会資料71号)が、現代における実務と理論の一つの到達点を示すものとして検討対象に加えられる。さらに、時間的に余裕があれば、「警察実体法」乃至「警察基本法」の内容を分析するに当たって、警察活動法律主義の「完成型」と称されるオーストリア警察法並びにその制定過程も検討対象に加える予定である。オーストリアの警察法制は、我が国と同様フランスに範をとるものの、個別授権方式を採用する点でドイツ以上に我が国と共通点が多く、また理論と実務の成果を取り入れながら法治国家的警察法理論を極めて詳細に法典化していると評されていることから、理論と実務の協働の産物がどのようなプロセスを経て立法へと結実するのか、法ドグマーティクの機能とその効果について検証する格好の素材と考えられるからである。 なお次年度は、本研究活動の一環として、「行政法理論と実務の対話―警察・安全、都市計画・まちづくり」を統一テーマとした第16回行政法フォーラム(7月29日、於:東京大学)で「『警察権の限界』論の再定位―親密圏内における人身の安全確保を素材として」と題する報告を予定している。
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Causes of Carryover |
残額としてはごく僅かなものであることから、ほぼ計画通りに執行できたものと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残額はごく僅かなものであるから、次年度の研究計画に係る書籍代として早々に執行する予定である。
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