2015 Fiscal Year Research-status Report
9・11後のニューヨーク:テロ予防の刑事司法・都市再開発・市民的自由
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15K03101
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
今野 健一 山形大学, 人文学部, 教授 (70272086)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 早苗 仙台白百合女子大学, 人間学部, 教授 (90285685)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | テロ・犯罪のリスク / 憲法と市民的自由 / レイシャル・プロファイリング / 都市空間の再編成 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度ということもあり研究資料の収集に努めることを主眼としたが、本研究費支給以前の蓄積をベースにしつつ一部のテーマについて研究を進捗させ、その成果の一部を研究論文にまとめた。ニューヨーク市の犯罪対策プログラムの違憲性を明言して波紋を呼んだ2013年のFloyd判決の検討である。研究論文を27年度末にまとめて研究代表者の所属大学の紀要に投稿し、現在査読中である。上記論文で明らかにしたのは次のことである。 ニューヨーク市と同市警察本部(NYPD)は、攻撃的ポリシングの一環として、特に銃器暴力犯罪を抑止するため強力な停止・身体捜検政策を採用してきた。かかる政策はマイノリティ人口が多い高犯罪地域(high crime area)に集中され、警察による停止件数はピークの2011年には68万5724件に達した。被停止者のほぼすべて(90%)がマイノリティ男性で、停止の大部分(88%)で犯罪の何らの証拠も見出されなかった。NYPDの停止・身体捜検がレイシャル・プロファイリング(Racial Profiling)として法的問題を孕むことを指摘する研究が増加するなかで提起されたのが、Floyd訴訟である。 2013年8月12日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所のShira A. Scheindlin裁判官は、NYPDの停止・身体捜検政策は人種的マイノリティの権利を侵すものであり憲法違反(修正4条・14条)であるとの判断を下すとともに、同市に対し、NYPDの停止・身体捜検を始めとする実務と政策の広汎な改革を命じた。同判決の憲法学的精査は今後の課題だが、高犯罪地域でのレイシャル・プロファイリングの実施が、大多数の「無実」のアフリカ系やヒスパニック市民の尊厳を害し、地域社会と警察当局との緊張を高め、警察の正当性に決定的なダメージを与えているのは、否定し難い事実であると指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究初年度の年度目標は、9・11テロ後のニューヨーク市およびアメリカ合衆国における対テロ政策・治安維持政策、ニューヨーク市警察本部(NYPD)の組織とポリシング、刑事司法、都市問題・都市政策などに関する文献・資料の収集に努めることであった。幅広いリサーチに基づき、研究資料の収集計画を立て、順次それを実行した。 研究資料の収集は、おおむね順調に進捗している。さらに、上述のように、これまでの収集資料の一部を用いて、研究成果の一部を研究論文にまとめるなど、全体としてみると、当初計画より進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目も引き続き、研究目的に関連する文献・資料の収集に努める。また、長期休業期間を利用し、ニューヨーク市に赴き、現地での視察・見学を実施する予定としている。研究成果の公表については、研究代表者が自身の研究分野で本研究の目的に即した内容の盛夏の候表を予定しているし、年度末までには、再び共同研究による中間報告的な論稿を取りまとめることも考えている。 研究の具体的な方向性としては、まず憲法学の見地から2013年のFloyd判決の精査を行い、修正4条および14条に関わる判例理論を析出するとともに、アメリカの憲法・刑事法学説による検討状況を踏まえて、NYPDの停止・身体捜検政策の、特にマイノリティ市民の市民的自由に対する制約の問題性を浮き彫りにする。 また、テロを未然に防ぐことを最優先とした秩序維持政策の展開と、それに伴うアラブ系・ムスリム市民の市民的自由侵害の実態を検討したい。特に、最近、ピュリッツァー賞を受賞したAP通信の調査報道により暴露された、NYPDのムスリム市民監視プログラムについて、報道機関による報道や、当該監視プログラムの違憲性を争うHassan v. City of New Yorkなどの一連の訴訟、憲法学説を中心とする研究動向を精査する予定である。
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Causes of Carryover |
研究資料(図書)のうち、メインとなる外国語書籍の入手については、必ずしも想定した通りには進まなかった。その理由は、当初入手していた出版情報がのちに変更されたことや、入手までの時間を想定以上に要したことなどである。また、旅費が見込みよりも少ない額で済んだこと、複写費等の支出が少なくなったことなどがあり、一部残額が生じる結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究資料の検索とリストアップの作業を急ぎ、不確定要因を考慮にいれ、余裕をもった収集計画を立てることとする。これに基づき、研究資料の入手に力点を置き、引き続き計画的に使用するよう努めたい。
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