2018 Fiscal Year Research-status Report
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15K03103
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
渡辺 康行 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (30192818)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 思想・良心の自由 / 信教の自由 / 政教分離 / 三段階審査 / 二段階審査 / イスラームのスカーフ事件 / 「君が代」訴訟 / 憲法上の権利の救済 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、これまで積み重ねてきた個別的な研究を『「内心の自由」の法理』(岩波書店)という論文集にして公刊することができた。この著書は、第一部でドイツにおける信教の自由と国家の宗教的中立性の要請が緊張関係に立つ場合の調整手法を、イスラーム教徒の教師のスカーフ事件を中心的な素材として考察している。第二部では、ドイツ連邦憲法裁判所などで使われている、保護領域・制約・正当化と分節する三段階審査を,日本における思想・良心の自由という法領域にも導入することを試みている。その際に素材として選択しているのは、「君が代」訴訟である。第三部では、まず信教の自由に関する判例の動向を思想・良心の自由に関するそれと比較しながら考察した。ここでも三段階審査の手法を分析の道具立てとして用いている。また政教分離規定という客観法規範適合性については、「かかわり合い」の有無等の審査と「かかわり合いが相当とされる限度を超える」かの審査という、二段階の審査に分節できることなどを論じた。さらに日本の判例において信教の自由と政教分離規定が緊張関係に立つ事例と、その調整の仕方を考察した。それらを通じて、第一部で扱った、ドイツにおける両者の調整方法との違いとその要因について分析した。この著書をまとめたことによって、本研究課題は確実に前進したと思われる。 本年度、上記以外の業績として挙げておくべきは、憲法81条に関するコンメンタールの解説である。この解説は、違憲審査制に関する判例・学説の現状を概観するものである。この論稿を執筆することによって、救済手法を考察する際の基礎を固めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、長年の課題だった『「内心の自由」の法理』という単行書を公刊することができた。この著作によって、憲法上の権利の体系構築のための段階を一歩上がったと思われる。またそれと並んで、憲法81条のコンメンタールを執筆したことによって、憲法上の権利が侵害された場合の救済手法についても概観することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は本研究課題の最終年度に当たるため、総括的な業績を公刊したい。一つは、立法者による制度構築に依存する権利に関する考察である。もう一つは、憲法上の権利が侵害された場合の救済手法を中心として、司法権や憲法訴訟を体系的に考察することである。これらの課題を、平成28年度に公刊した体系書の姉妹編である『憲法Ⅱ 総論・統治』という形で果たすことを予定している。
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Causes of Carryover |
平成30年度は著書を公刊する準備で忙しく、旅費を使用しなかったことなどから、残額が発生した。平成31年度(令和元年度)は、現在のところ10月に大阪に3泊4日の出張が決まっている。また、体系書の公刊を予定しているため、読者の立場から原稿を校閲するアルバイトを複数名雇用するつもりである。
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