2016 Fiscal Year Research-status Report
憲法規範の具体化過程の臨床憲法学的研究――生存権具体化過程を中心に
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15K03106
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
笹沼 弘志 静岡大学, 教育学部, 教授 (70283322)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 憲法 / 生活保護法 / 臨床憲法学 / 憲法規範 / 生存権 / 認識論的障害物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は日本における生活保護基準引下げに伴う保護費減額処分取消訴訟に焦点をあて、臨床憲法学的研究を行った。その過程で鮮明となったのが、憲法規範とは何であり、いかにして具体化されるのかという認識そのものが争訟の行方を大きく左右する可能性があると言うことである。 本訴訟は全国的に生活保護引下げ違憲訴訟と呼称されるが、その趣旨は本件保護費引下げにより生存権が侵害されたと言うことである。しかし、結果として生存権を侵害されたからといって、すべて違憲訴訟として争われねばならないわけではないのは明らかなことである。例えば生活困窮者が生活保護申請処分を却下された場合、これが生存権を侵害するものであることは明らかである。しかし、これを違憲訴訟として争う必要は全くない。生活保護補う4条1項の資産能力活用という保護の要件に照らして適法な処分であったか否かが争われるのみであり、単純に生活保護法違反が問われる事例である。 それでは、本件基準引下げによる保護費減額取消処分はどうか。これは、生活保護法に照らして、処分庁の処分が適法であったのか、処分庁が処分の根拠とした大臣の基準改定が適法であったのか否かがとわれる事案であり、端的にいって憲法25条違反が問われる事案ではない。大臣の基準改定権限は生活保護法8条1項により授権されており、同条2項によって基準設定に置いては要保護者の必要な事情を考慮すべき義務が課され、その裁量権は大きく制限されている。つまり本件における大臣の基準引き下げは生活保護法8条2項に違反するか否かこそが争点なのである。しかしながら、憲法25条生存権への執着により、肝腎な争点が見失われることになっているのである。憲法学説、司法・法実務家、市民運動が一体となって憲法25条という壁を築き、争訟の核心を覆い尽くしているのである。この憲法規範具体化過程の認識論的障害物の発見が最大の成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究当初想定していた課題に加えて新たな課題、すなわち憲法規範の具体化過程を阻害するものとしての認識論的障害物を発見するにいたったことが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
憲法規範がいかにして具体化されるのかという観点のみならず、その具体化を妨げる、あるいは具体化されているにもかかわらずその認識を妨げるものとしての認識論的障害物の究明という新たな段階に研究を発展させていくことに力を注ぎたい。
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Causes of Carryover |
購入予定物図書の金額が残額を若干超えていたため次年度に購入することとしたことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入予定図書の経費に充てる予定である。
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