2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03111
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松本 和彦 大阪大学, 高等司法研究科, 教授 (40273560)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 憲法 / 環境法 / ドイツ法 / 環境リスク / 知識創出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、国家による環境リスクの低減・排除が、グローバル化等の現代の文脈において、実効性確保の点で困難を抱えていることに鑑み、それを今後も国家が引き受けるべき責任があるとするのなら、国家の法創出過程がいかなるものでなければならないかについて、現行憲法の構造に照らし、再検討しようとするものである。 本年度も、前年度に引き続き、文献の精査に力を入れるとともに、関係者と意見交換を行って、知識を吸収することに努めた。本年度に読み込んだ文献の多くが検討の素材として化学物質のリスクを扱っていたことから、必然的に化学物質の環境リスクに焦点を当てた研究を踏まえた文献精査が主たる活動となった。化学物質審査管理法をはじめとして、化学物質の環境リスクを扱う近年の法律は、不確実な結果を見据えた予防原則に留意しつつ、有用な情報を収集・管理して、そこから有益な知識創出へと結びつける情報コントロールに主眼を置いた環境リスク・マネジメントの具体化を図ろうとしている。本研究もまた、そうした時代的潮流に沿った研究を進めている。 本年度は、環境リスク・マネジメントの枠組みとされるべき法制度のあり方を模索しつつ、研究成果としては、従来の環境権とは異なる視角からの環境「権」構成のあり方を構想するにとどまった。その一部は、台湾環境法学会から招かれ、国際学会報告として発表された「環境権の権利構成」や、報告書の中にまとめられた「ヨーロッパ法における環境権」といった形で公表されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
知識の創出とイノベーションに関する一般理論の検討を進める過程において、本年度は、ドイツ・ハンブルク大学のWolfgang Hoffmann-Riem教授の理論を検討していたところ、思いがけず、同教授の大著 Innovation und Recht-Recht und Innovationに接し、その理論の射程と深度を図るべく、知的葛藤を余儀なくされている。昨年度から進めている原子力リスクと遺伝子技術リスクの具体的研究対象と、知識創出とイノベーションに関する一般理論のすり合わせは、なお十分とは言えないが、おおむね想定の範囲内で進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
知識の創出とイノベーションに関する一般理論の検討を翌年度の前期までに終えて、考察の重点を一般理論の検討から参照領域と憲法学の統治機構・基本権論の接合研究に移行したいと考えている。既に環境権論の検討は始めているものの、環境権論の域を超えて、総合的な環境憲法論に研究を結実させていくのが、今後の研究の目指す方向である。そのためには、ドイツの環境憲法論に手がかりを求めつつも、日本の公法学の蓄積の中に、理論的接点を見出すよう努める必要があると考えている。
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Causes of Carryover |
パソコン購入費用として想定した金額より若干少ない費用でパソコンが購入できたため、1万円ほど余裕ができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越し分は1万円程度にとどまり、その金額だけで何かできるというわけではないため、翌年度に支出を予定している旅費に充填しようと考えている。
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Research Products
(5 results)