2015 Fiscal Year Research-status Report
グローバル時代における「主権論」と重国籍者の政治的権利に関する比較研究
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15K03116
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
菅原 真 南山大学, 法学部, 教授 (30451503)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 二重国籍 / 主権 / 外国人の参政権 / 政治的権利 / 国籍 / 市民権 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.現在までの達成度 初年度の平成27年度は、EU加盟諸国における二重国籍の認容状況を調査するとともに、「国籍」と「市民権」の法的意義と両者の歴史的関係性、とりわけ1980年代以降急展開した国際法・EU法の発展に伴う「主権の制限」(国内憲法の変容)、欧州人権法の展開とその下での重国籍者の政治的権利に関する裁判例についての文献研究を中心に進展させた。欧州諸国の問題を検討する上で、特にEU構成国における分析の視覚として重要な点は、①EU内部における二重国籍者(intra-EU)の問題と、②EU構成国と第三国の二重国籍者(extra-EU)の問題とを区分して論じることである。EU構成国においては、地方自治体―国―地域共同体(EU)の多層構造が存在する。その際、同じ二重国籍者であっても、EU構成国民(EU市民)と非EU構成国民とでは歴史的背景が異なり、とりわけ後者については、1980年代初期に「兵役義務(military service)」の問題を中心に、外交上紛争・対立が生じた場合の問題が強く議論されてきた。 現在では、特に二重国籍者によるテロ犯罪に対する対処の一環として、国籍剥奪の手段を採用し、2015年~2016年3月にかけてフランスではそれを憲法典に明記しようとする試みがあった(当初の政府案2条)。国会での審議がちょうど行われていた時期にフランスに現地調査を行い、研究者から専門的知識の提供を受けた。現代フランスの国籍法改革では「ナショナル・アイデンティティ」論が主要な争点の一つとなった。
2.今後の研究の推進方策 初年度の研究計画では、「欧米諸国」における国籍法制、重国籍の認容状況、重国籍者の政治的権利、主権論との関係について考察を行う予定であったが、EU構成国の研究にとどまってしまったため、二年目の本年度は北米諸国についての研究を進め、三年目に南米諸国の研究を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の平成27年度は、当初、「欧米諸国」の国籍法制、重国籍の認容状況と重国籍者の参政権の調査・検討を行ない、憲法理論上の課題を抽出する予定であったが、大学を異動したこともあり、「米」については調べることができなかった。 但し、フランスに現地調査に行くなどして、フランス、オランダ、イタリア、スペインなど、欧州連合加盟諸国のうち、その主要国における二重国籍の認容状況、「国籍」と「市民権」の法的意義と両者の歴史的関係性、とりわけ1980年代以降急展開した国際法・EU法の発展に伴う「主権の制限」(国内憲法の変容)、欧州人権法の展開と欧州人権裁判所における重国籍者の政治的権利に関する判例については、研究を進展させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究計画で研究対象としていたアメリカについての研究を一年目に行うことができなかったため、二年目の本年度はいずれも移民受入国であるアメリカ、カナダの両国についての研究を進める。そして三年目に南米諸国の研究を進める。 初年度の研究についてはその成果をまとめるため、本務校の紀要『南山法学』に、「フランス公法学におけるナショナル・アイデンティティ批判論」に関する翻訳1本、「欧州諸国」を対象とする「グローバル時代における『主権論』と重国籍者の政治的権利に関する比較研究」の論文を2回に分けて連載する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、大学を異動したため、前任校での授業やゼミ・卒論指導を行いながら、新しい本務校の新しい業務を担う必要があったため、研究時間の確保を徹底し、研究計画を予定通り貫徹することができなかったことにある。 本研究二年目は、長期休暇における研究時間の確保を行い、研究計画どおりに研究を進めていく決意である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
二年目となる平成28年度は、一年目に研究計画にあった「欧米諸国」の研究のうち、やり残したアメリカに加えてカナダも研究対象とし、北米諸国を対象とした研究を行っていく。国籍法、憲法、国際私法、歴史社会学の関連文献を購入して、初期の研究目的を実現すべく研究をすすめていくとともに、長期期間に渡米して、専門家から専門的知識を提供していただく計画である。
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Research Products
(7 results)