2016 Fiscal Year Research-status Report
グローバル時代における「主権論」と重国籍者の政治的権利に関する比較研究
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15K03116
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
菅原 真 南山大学, 法学部, 教授 (30451503)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 重国籍 / 主権 / 外国人 / 国籍 / 市民権 / 政治的権利 / グローバル化 / 国民国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度においては、初年度の「研究実施状況報告書」を踏まえ、北米諸国における重国籍・複数国籍(multiple nationality, dual nationality)に関する文献研究(国際法、憲法、政治学、社会学)を進めた。「ヒトの移動」が活発化する現代グローバリゼーションの展開の中で、二重国籍の地位を容認する傾向は、世界的に顕著になっている。従来の国民国家に対する「忠誠パラダイムの衰退(erosion of the allegiance paradigm)」という状況下でも、政治的権利を中心とするシチズンシップはいまだに国家=政治的共同体の範囲を刻印してはいるが、政治的共同体の間の重複は、許容され、促進されている状況にあり、重国籍を容認している国々の間では、重国籍者であるという基準のみで参政権を制限しなければならないとは考えられていないと結論づけることができる。幾つかの国では参政権の制限を行なってはいるが、それは「重国籍」を直接の要因とするものではなく、「居住要件」によってである。当該年度においては、そうした重国籍を許容する各国の状況について、その選挙権・被選挙権の行使の観点から、一定の分類をおこない、分析する作業をおこなった(一部は、2017年2月22日開催の東京外大AA研「シティズンシップと政治参加」研究会で報告)。 なお、当該年度において公表できた成果はないが、本研究テーマに関連する脱稿済みのものとして、①「重国籍者の被選挙権 第一議定書3条の自由選挙 ―タナセ判決―」(『ヨーロッパ人権裁判所の判例Ⅱ』掲載予定)、②「外国人の権利―フランスにおける外国人の権利に関する2016年3月7日の法律第274号」(日仏法学29号掲載予定)、③「立法紹介:庇護権の改革―庇護権の改革に関する2015年7月29日の法律第925号」(日仏法学29号掲載予定)等がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大学に異動して二年目で担当科目の総入れ替わり(隔年変更)による授業準備の影響もあったが、一番の理由は大学の制度改革をはじめとする本務校の重要な学内業務の職責を果たす必要があり、長期休暇を含めまとまった研究時間を確保できなかったことである。 研究最終年度は、この二年間の反省を踏まえ研究最優先で取り組む所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度の2017年度は、まず、スウェーデンおよびフランスに研究調査に入る。前者については、1970年代後半に外国人地方参政権を承認する法律を次々に制定し、成功した「福祉国家」モデルとして我が国に紹介されてきた北欧諸国においても、2013年の「スウェーデン暴動」を契機に「移民統合政策の失敗」が論じられるようになった。北欧諸国における「国籍」と「政治的権利」ないし「主権」の関係について当局者にインタビュー調査を行なう。後者については、フランスでは2017年4月・5月の大統領選挙の結果、反EU・反移民を主張する極右の候補者は敗れたものの、重国籍者のテロ犯罪者の国籍剥奪など「国籍」をめぐる議論は論壇で続いているところである(例えば、POUVOIRS の最新号である第160号は「国籍」の特集を組んでいる)。フランスにおいては、重国籍者の政治的権利を含む諸権利についても、当該重国籍者の国籍が①フランス=EU構成国、②フランス=非EU構成国、③EU構成国=非EU構成国などに分類した上で検討を加える論稿も出ており、その最新動向をフランス憲法研究者から聞き取りを行なうとともに、文献を収集し分析・紹介を行なう必要があると考えた。 第二に、研究成果の公表である。この点は、昨年度不履行であったので、最終年度は論文の公表、学会・研究会での発表を行なうべく、既に予定に組み入れているところである。具体的には、紀要(南山法学)および東京外大AA研の研究グループの共著書への掲載、中部憲法判例研究会(2017年6月)および移民政策学会(2017年12月予定)での報告である。 最後に、可能であれば、上記の論文及び学会報告を基に、今後、単著としてまとめ発行できるように努力する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、2017年度からの大学の制度改革、学部の新任教員の大量受け入れをはじめ、学部の教務業務を統括する教務委員として、従来と異なる膨大な仕事量の学内業務の重責を担う必要があり、研究時間の確保が大変難しく、研究計画の遂行が大変困難であったためである。長期休暇にも海外出張を含む想定外の仕事が多く入り、入職してまだ二年目という状況の中で、担当科目の変更もあり(法科大学院および学部の担当科目)、仕事の優先順位を考慮に入れると、調査旅行に出かけることはできなかったし、また自己責任ではあるものの、期限までに本研究テーマでの研究をまとめ、原稿を完成させることができなかった。 新年度は研究最優先で取り組む所存である(長期休暇は科研費の本研究に最優先で取り組むことを学部長に相談し、お認めいただいている)。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度となる2017年度は、長期休暇を利用して、二年間の文献研究では解明できなかった北欧(スウェーデン)・西欧(フランス)、への研究旅行により、調査や現地でしか入手できない文献を収集するため、「旅費」が必要となる。 さらに、研究成果をまとめるための「物品費」(具体的には製本・印刷代)が必要となる。
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Research Products
(1 results)