2016 Fiscal Year Research-status Report
競争的権威主義体制と立憲民主政の相互作用--東アジアの場合
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15K03123
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
松平 徳仁 神奈川大学, 法学部, 准教授 (70554872)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グローバル化 / 立憲主義 / 民主主義 / 権威主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の憲法政治の動きは、「立憲主義vs民主主義」という意味づけ図式の陳腐さをあらためて浮き彫りにした。一方では、立憲民主政の代表制的統治構造を利用して政権を握り、ナショナリズムを動力源とする権威主義体制にすげかえる極右ポピュリスト政党の進出があり 、これを比較政治・比較憲法学は的確に、民主主義の不況(democratic depression)または立憲主義の濫用(abusive constitutionalism)として理解している 。2016年のアメリカ大統領選挙が、はからずもこの現象をもっとも劇的に表現する事例となった。そしていまトランプ政権が強権的に推進している諸政策は、メディアと市民社会を威圧することで公共圏を解体し、民主的政治過程の競争を除去し、選挙制度そのものを歪めることを目的としている。それは権威主義体制への退行(retrogression)を意図するものであり、したがって反民主主義である 。 他方では、2011年以降、オキュパイ・ウォールストリート運動によって典型的に表象されるように、ソーシャル・メディアを媒介に世界各地の広場や路上でくり広げられてきた民主主義運動の大規模化とクラウド化があり 、「グローバルな寡頭支配」のエリート専断的傾向に抵抗して立ち上がった一般市民と学生は、むしろ立憲主義にもとづく理由づけを積極的に活用している 。この特徴はとりわけ、2014年3月台湾で起きたヒマワリ運動、同年10月香港で起きた雨傘運動、2015年6月以降日本で起きた安保法制反対運動において顕著である 。このように、立憲主義と民主主義を無理やり因数分解して対立させることは、事態の理解と解決に役だつどころか、妨げとすらなっている。平成28年度は、グローバルな権威主義とそれに対抗する、新しい民主主義的政治と文化に対応する憲法論のあり方について探究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比較・準拠モデルの対象とした欧米の立憲民主政諸国の多くは、その標準装備である、「市場国家」(market state)と「安保国家」(national security state)の相互作用がもたらす民主主義の不況にあえいでいる 。これまでの研究で予測していた事態である。そしてその理由として本研究がとっている仮説をあてはめると次のようになる。 ステート・ビルディングを市場に丸投げした国家は、そのことで個々人を、健康で文化的な最低限度の生活と幸福追求権の剥奪という実存的不安へと追いこんでおきながら、問題を国家安全保障のコンテクストでしかとらえられないために、有権者に排外主義的な安心感を売りこむポピュリズムの台頭をみずから招いてしまう。すなわち、グローバル経済によって拠りどころであった、仕事と生活環境、他人と結びあう関係性の世界を壊された人びとは、SNS上の蜃気楼である想像の共同体――国民的、人種的、宗教的仲間団体――という代わりの商品を売りつけられ、それにしがみついて溺れることを強いられる。そして社会経済的不安定性の進行が、想像上の「自分たち」に対する帰属感と、想像上の「ヤツら」に対する恐怖心・嫌悪感を同時に増幅させる。しかし、かつてこうした感情を受けとめていた社会的民主主義が衰退し、立憲民主政の価値に依拠する安保国家の施策――「テロ対策」としての監視・通信傍受から「人道的介入」としての軍事行動まで――も傷ついた民心を癒すことができない。そこでニッチを埋めるべく登場したのが、欧米における極右主導のポピュリズムである 。 政治学者ミュラーが正当に指摘したように、「本物の」人民による支配を標榜するポピュリズムは、〈demos〉の複数性と、多元的な政治の審議と参加を否定する点で、権威主義であり、反民主主義である 。先進国におけるこうした反競争的権威主義の出現は、新たに課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成29年度に、研究でいちおう解明した課題のとりまとめや、未解決の課題についての仮説提示を行い、研究成果の公表を順次行っていく予定である。
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Research Products
(7 results)