2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03137
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
稲角 光恵 金沢大学, 法学系, 教授 (60313623)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 特権免除 / 刑事管轄権 / 個人責任 / 国際犯罪 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は刑事管轄権からの免除に関する国際法規則の内容と現状を明らかにするため、国内裁判所及び国際司法裁判所並びに国際刑事裁判所(ICC)の判決や動向を検討した。国内裁判所判決としては、ICCからのバシール大統領逮捕状に反して逮捕を行わなかった南アフリカの最高裁判所が、ICCに協力する国が行使する管轄権に対しても国家元首等が享有する特権免除は有効であるのか否かの判断において、強行規範(ユス・コーゲンス)違反の行為について免除の原則の例外とする慣習法規則が確立したとまでは言えないと判示した点に注目した。 同様に慣習法の内容についての疑義が多様な場で表明されていることを確認した。外国刑事管轄権からの免除に関する特別報告者の第5報告書を、国連国際法委員会における審議内容とともに研究した。特に国際犯罪の場合には人的免除は影響はないが事項的免除は否定されると定めた法典第7条案については、法典草案と議論の動向を引き続き追いたい。 また、アフリカ連合(AU)が新設を計画しているAUの国際刑事管轄権ではAUの国家元首及び政府首長が管轄権から免除されることを明文で定めていることに注目して、公的地位無関係の原則を定めているICCと比較して検討を行った。この点に関する研究成果は、「アフリカ連合(AU)のアフリカ国際刑事裁判所の概要と特徴」と題して『金沢法学』第59巻1号に論説として発表した。 さらに、学術的な論争状況においても最新情報を得るため、管轄権からの免除に関する国際法規則が流動的な状態にあることを多角的に分析し議論した国際法学会(ベルギーのゲントにて開催)に参加して見識を得た。以上の研究を通じて、免除に関する国際法規則内容について各国及び裁判所間に見解の相違があることが明らかになり、理論構造の再構築を行う必要性を感じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
注文した専門書の入手や海外の学会出張など順調に資料収集を行うことができ、研究をおおむね順調に進展させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「現代国際法における個人の管轄権免除原則の問題分析」 本エンドは研究最終年度となる。研究最終年度として理論的分析を重点的に行いたいと考えている。国家が外国の裁判管轄権に服することを強制されないとする国家免除との関係、個人責任と国家責任との関係、国際人権法、強行規範との関係など、分野横断的に免除の原則との関係を考察することにより、免除の原則の現代国際法上の意義を探る。国家の免除が絶対的免除から相対的免除へと各国の実務及び学説が移行してきたように、個人の外国刑事管轄権からの免除に関しても時代の要請に応じて変化が生じていることを明らかにする。また、これらの考察は、国家及び国際的裁判機関の管轄権の本質に関する示唆、並びに伝統的国際法から現代国際法への構造転換の一つを浮き彫りにすることに寄与すると考える。毎研究年度に研究成果を発表する予定であるが、特に研究最終年度は、研究成果を論文にまとめ、公表する。
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Causes of Carryover |
注文した専門書の入手価格の変動や税金等により差額が少々生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
差額は少々の額であり、平成29年度の研究費とともに使用する予定である。
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