2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03146
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
古谷 修一 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (50209194)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際刑事裁判 / 刑事化 / 国家元首の免除 / 国際事実調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、国家間の水平的秩序を象徴してきた主権免除に関する国際法規範が、責任追及の旗印のもとで動揺し、部分的に免除を否定する方向に傾斜しつつある点を分析した。とりわけ、国家元首等の免除に関連する論点について、「外在的規範への拡張」に位置づけられる国家間関係における問題と「内在的派生」と言える非締約国の元首などに対する問題とに区分して考察を行った。逮捕状事件において、国際司法裁判所(ICJ)は伝統的な国家元首等の他国管轄権からの免除を再確認したが、ICCの活動と平行して、(元)国家元首等を国内裁判で訴追する動きは依然として活発である。この動向は、垂直的秩序への実質的な移行を示しているとも考えられ、背後に国際秩序認識の変化を見てとることができる。他方で、アフリカ連合の反発やこれに歩調を合わせたいくつかの国のローマ規程からの脱退は、水平的秩序への回帰を模索する動きであり、これら並行的な動きを理論化する道を探った。この間、8月にはパリに出張し、国際刑事法関係の学者数人にインタビューを行うとともに、2月には国際人道事実調査委員会の年次会合に出席する機会をとらえて、ジュネーブにおいてCommission of Inquiry(COI)に関する資料収集等を行った。 また、27年度に傾注した垂直的指向性を持った事実調査に関する研究に関連して、国境なき医師団のラウンドテーブルにおいて招聘講演を行い、事実調査が刑事化する傾向にあることを指摘した。また、刑事分野における国際協力が死刑などをめぐる「価値観の絶対的相違」によって阻害されてきている問題性を、EU-Japan Forumにおいて発表した。この報告において、本研究課題が問題とする垂直的な秩序意識が、いわば「善意」の人権保護認識にもとで形成されてきており、それがむしろ水平的な側面での積極的な協力を停滞させるジレンマを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に検討を計画していた事項については、関連する判例・文献の検討はほぼ完了することができた。ただ、27年度に研究事項であった事実調査の「刑事化」に関して海外での報告依頼等もあり、27年度と28年度の研究内容が混在する結果となったため、28年度に予定していた国家元首等に関する免除に関する「理論的」整理については、若干を29年度に持ち越す結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、二つの方向から刑事化の動態を検討し理論化する。第1は、28年度に完了しなかった国家元首等の免除に関する理論化について、侵略犯罪がもたらす要素を取り入れながら進める。従来侵略行為は国家の行為と位置づけられ、国家責任を発生させる事例と考えられてきた。しかし侵略犯罪の誕生は国家指導者個人の責任を問う方向を示すことによって、国家責任と個人責任の併存はもちろん、国家責任の「刑事化」の可能性も内包することになった。こうした側面を考慮に入れた理論構築を試みる。 第2に、武力紛争の被害者救済について、「刑事化」の視点から検討する。この点については、6月に香港中文大学で開催されるシンポジウム「The International Criminal Responsibility of War's Funders and Profiteers」において報告をすることが決定しており、関係の研究者と意見交換を行う予定である。また、このテーマに関しては、ドイツMax-Planck Institute of Comparative and International Lawより、書籍の執筆とシンポジウムでの発表(2017年11月)を依頼されており、こうした国際発信に向けた取り組みを行う。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究では、関連書籍・資料の購入費用が予定していたほどにならなかった。また、海外出張を含めて他の計画に関する執行は順調に進んだが、平成27年度の残額を使用し尽くすまでには至らなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、シンガポール、香港、ドイツなど海外学会での報告の機会が当初予定よりも多くあり、これらの海外出張旅費の支出によって、繰越金も含めて配分された予算を執行する見込みである。
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