2016 Fiscal Year Research-status Report
占領法規の現代国際法上の位置づけと意義に関する多元的研究
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15K03147
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
新井 京 同志社大学, 法学部, 教授 (10319436)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 占領 / 国際人道法 / イラク占領 / パレスチナ占領 / イスラエル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、伝統的に軍事占領の定義の中核とされてきた「外国軍による領域の実効的支配(=情勢の相対的安定)」という要素、および「同意によらない(Non-Consensualな)外国軍の駐留」という要素のうち、前者に関する実地的調査と後者に関する学説判例調査を行った。 「実効的支配」要件については、軍事技術の発展やかかる技術の当事者間における不均衡から問題が生じうる。例えば、イスラエルのガザ地区への昨今の対応のように、地上軍は撤退しているが制空権や制海権を完全に支配し、無人航空機やヘリによる常時監視の下に置かれ、決定があれば数時間で再占領可能な状況を「実効的支配」とみなし、軍事占領に含めうるかという問題である(地上軍なしの支配)。本年は、イスラエルによる占領を受けている東エルサレム・ヨルダン川西岸地区の現地調査を行い、またイスラエルとニュージーランドにおいて研究者の意見を聴取することにより、支配のありようの実体を調査することができた。 他方、「同意によらない駐留」という要素についても、調査をすすめた。最近の紛争においては、占領地住民と元来の領域国当局の間にアイデンティティのずれが存在し、そのことが占領軍と占領地住民との関係を複雑化し、外国軍駐留に関する領域国の「同意」の意味を相対化する場合がある。今日の領域国の同意に基づく(占領とはみなされない)軍事活動、例えば、2004年の主権移譲後のイラクにおける英米軍の活動、現在まで続くアフガニスタン「政権」による同意に基づく多国籍軍の治安維持活動が非常に危険なものとなっていること、およびそれら軍隊と現地住民との関係が流動化していることなどから、この問題はアクチュアルなものであると考えられる。学説と判例、過去の事例を調査することにより、「同意によらない」という要素が相当程度意味を変えつつあることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
27年度の研究成果に深みを与えるために、28年度も27年度予定の課題について引き続き研究を行った。ここ2年間で行った占領の本質にかかわる研究は残された「占領法規の国際法の発展の中での定位」にとって重大な課題であるため、この遅れはむしろ研究の進展につながるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は28年度に予定されていた「国際公益の実現」と占領法との関係に関する研究を、今年度に予定されていた国際法体系の全体像からみた研究に取り込みながら研究をまとめたいと考えている。
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Causes of Carryover |
校務の都合で、パレスチナ占領地での現地調査の日程を短くせざるをえない状況となったため、支出予定の旅費が余ってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度にパレスチナ占領地において追加的調査を行うことで対処する。
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