2015 Fiscal Year Research-status Report
「若者の貧困」の検証ー生活保障・就労支援の日独比較研究
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15K03162
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
上田 真理 東洋大学, 法学部, 教授 (20282254)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 総合的保障 / 労働能力の低下 / 非正規雇用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、労働市場の変貌を原因とする貧困(失業・非正規雇用)を対象に、「グローバル競争」にかなう若者の雇用保障・生活保障を解明することを目的とするものである。本研究の生活保障と雇用政策の総合的保障の視角は、「労働」の視点だけでは生活保障が抜け落ちることを認識する一方で、家族・世帯から捉えるだけでは非正規雇用の劣悪な労働条件が不鮮明になるのを回避する点に、その意義を見出すものである。そこで、今年度は、雇用・社会保険の総合的保障について、私傷病に加えて、妊娠・出産などの労働能力の低下又は喪失を対象に、日独の比較研究を実施した。雇用関係の生活保障機能は、現に就労している段階だけではなく、一時的又は継続的な雇用喪失時の生活保障も含むものであることを具体的に、労働能力の低下等を対象に明確にしたいという意図による。また、競争に弱い立場にある若者に低賃金雇用が拡大し、失業保障も年金も十分に取得できないならば、当該労働者だけではなく社会全体にも悪影響になる。持続可能な雇用と「良質の社会保障」の制度化が課題になることを浮き彫りにすることの重要性も確信できるものであった。 本研究は、社会保障法において、私傷病、妊娠・出産、障害・高齢などの労働能力の低下・喪失を、生活保障と雇用政策の総合的保障という観点から明確にした点に、意義を見出すことができる。また、近年、若年女性の貧困化が顕在化しているが、労働法も社会保障法も、家計補助的労働者又は「被扶養者」として劣悪な雇用又は貧困を見えにくくしてきた。家計維持責任を負う女性労働者が非正規雇用に従事し、国保に加入している場合など、健康保険法による傷病時の保障又は出産手当金だけでは、十分でないのは明らかであり、国家による保障と企業による役割を検討することが重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の課題は、1つに、日本における女性の貧困に対する現状を検証し、そして「良質の雇用」とセットになった生活保障の議論状況を確認すること、2つに、日本の現状を踏まえドイツの調査をすることであった。2つの課題とも概ね計画にしたがい、実施できたため、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今後、低賃金労働と社会保障について比較研究をすすめていく予定であり、とくに、低賃金労働者の将来の年金権についても具体的に推進していく。そこでは、差別的賃金の是正とあわせて、遡及的に年金期待権を形成できる理論が必要になる。また、生活保護受給者が年金受給にいたる場合、保護行政の返還請求(生活保護法63条)の解釈論なども、新たに着手したい。なお、研究計画の変更等はとくにない。
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Research Products
(1 results)