2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K03166
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
緑 大輔 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (50389053)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 情報プライバシー / 令状主義 / 強制処分法定主義 / 情報蓄積型捜査 / 第三者法理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、情報蓄積型捜査におけるデジタルデータの蓄積に対する法的規律に関する研究を遂行した。特に、アメリカ合衆国連邦憲法第4修正にかかわる議論を分析するとともに、日本の裁判例の分析を行った。 具体的には、GPSによる動静監視等の情報蓄積型の捜査手法に対する法的規律について、令状主義の有用性と限界について研究を行い、刑法学会分科会において発表した。そこでは、United States v. Jones判決を手がかりとして、令状主義が権利制約の上限を画する機能を有する点で、情報蓄積の上限を画するために有用性がある反面、裁判官が実効的な令状審査を行いうる捜査手法か否かについては検討の余地があるとの考えを示した。その後、アメリカ合衆国における第三者法理(Third Party Doctrine)に関する議論の調査を行い、その結果を加筆した上で、2016年度に公刊される予定である。 また、日本国内においても、GPSによる動静監視の適否が刑事裁判において争点となっており、裁判例が相次いでいる。このうち、車両にGPSを取り付けて実施した動静監視を違法と判断した、大阪地裁平成27年6月5日決定を分析し、評釈を公刊した。そこでは、(1)同決定が公道上の動静の監視に関する判断を明示的には行っておらず、むしろGPS装置によって対象車両の位置を私有地内においても把握した上で、私有地に侵入して装置の取付け・取外しを行っている点を違法の根拠としている点に特色があること、(2)監視対象者が当該事件被告人のほかに複数いるところ、それを分別せずに包括的に適否を判断しており、強制処分性の判断や違法収集排除法則の適否との関係で理論的に問題が生じうること等を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、(1)刑事訴訟法上の「強制処分」概念を、情報プライバシーの観点から、情報蓄積型の証拠収集行為への法的規律を可能ならしめるよう再構成し、(2)いわゆるビッグ・データが小型端末機器からアクセスできる現状を踏まえて、令状の執行時に被処分者のビッグ・データの収集・取得手続を情報プライバシーの保護の観点から解明することにある。 2015年度は、GPSによる動静監視をテーマとして、(1)(2)双方にかかる研究を遂行した。GPS監視捜査にかかるJones判決についての分析を行うとともに、逮捕に伴うスマートフォンの内容確認にかかるRiley判決の分析のための資料収集等を行い、2016年度に向けた準備も行えた点で、順調に進展していると判断できる。 他方で、文献・資料収集に膨大なコストを要したため、当初計画に比べて、研究会での発表・意見交換の機会を減らさざるを得なかった。そのため、「おおむね順調に進展している」にあたると思料する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、GPSに限定せず、更にビッグデータを包蔵しうるスマートフォン等の携帯端末のプライバシーの保護の在り方について研究を行う予定である。具体的には、2015年度に準備に着手していた逮捕に伴うスマートフォンの内容確認にかかるRiley判決の分析を行い、日本における示唆を得るとともに、携帯端末およびクラウド上に保存されているプライバシーを実質的に保護するための施策を検討する。 また、憲法学における統治機構に関する視点を加味してプライバシーの保護のための制度の在り方を考える準備として、憲法および英米法の研究者との意見交換を実施する予定である。加えて、2015年度に十分に実施できなかった研究会等における刑事法の研究者との意見交換の機会を積極的に設ける予定である。
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Causes of Carryover |
2015年度の研究費に3万1000円余りの残額が発生したが、これは洋書の納品時期に伴うものであり、2016年度に支払う予定のものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記理由により、繰り越し分については、洋書購入に充当する。
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Research Products
(4 results)