2015 Fiscal Year Research-status Report
会計基準の会社法における実体法的意義――IFRS導入を視野に
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15K03190
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
得津 晶 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (30376389)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 会社法 / 企業会計 / 会計基準 / 債権者保護 / IFRS |
Outline of Annual Research Achievements |
IFRSに基づく企業会計ルールの導入が、現在の日本法による貸借対照表テストによる分配規制その他の債権者保護制度にどのような影響を与えるのかを分析した。 1.日本におけるIFRS導入の現状:IFRSおよび日本版に修正した企業会計基準委員会の「修正国際会計基準(JIMS)」が日本の会社法においてどのように受容されているのかを分析し、それを会社法清算規定の解説(コンメンタール)として脱稿した(未公刊)。そこで、会社法上は、国際会計基準の任意適用が認められる範囲は連結会計のみであり、単体会計を前提とする日本の会社法会計の中では非常に限定的な地位しか持たないことを示した。これは、会社法会計の一大目的である分配規制との連携がないことを意味し、その背後には、本研究の問題意識である国際会計基準の想定する資産負債アプローチが、配当規制の前提である収益費用アプローチと発想に理論的な断絶があるという示唆が獲得できた。他方で、清算時の貸借対照表は、IFRSの発想に近いことを示した。 2.望ましい分配規制と債権者保護規制:以上の成果から、望ましい分配規制さらには債権者保護規制の在り方について検討を加えた。この中で、近時、社会的にも問題となっていた、債権者詐害的な会社分割(濫用的会社分割)を対象に、貸借対照表テスト・分配規制によらない債権者保護制度として、平成26年会社法改正で導入された直接履行請求権制度に着目した。同制度についての従前の研究をより深化させて、再度、成果を公表した。さらに、債権者保護制度として機能する一般法理のうち法人格否認の法理について、江頭憲治郎らの判例法理の批判にもかかわらず、判例法理が維持されていることの意味の分析を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年の研究目標は、1.日本におけるIFRS導入の現状の分析、2.分配規制との関係の分析、3.望ましい分配規制の分析、4.債権者保護が問題となった裁判例の分析の4点である。 そのうち、1.および2.については、会社法上の清算の条文の分析を通じて、会社法会計においてIFRSの任意適用が認められている領域は、会社法理論の中では非常に限定的であるという結論を導き、その成果を公表した。そして、その背景には、現行の分配規制と、IFRSの採用する資産負債アプローチとの間に理論的な断絶があるという示唆を獲得した。 そして、4.債権者保護が問題となった裁判例の分析については、近時問題となった濫用的会社分割を中心に、下級審裁判例および最高裁裁判例を分析し、さらに、平成26年改正で導入された直接履行請求権制度と民法上の詐害行為取消権とを合わせた検討成果を公表した。本論文においては濫用的会社分割を狭義の詐害行為と捉えるか、偏頗行為と捉えるか争いがあり、救済の可能性を広げるために狭義の詐害行為と捉える見解が有力であるところ、従前の理解との整合性からはそのような解釈は困難であり、むしろ、偏頗行為と捉えた上で、「支払不能」概念を柔軟に解釈するという別の方法により、救済の可能性を広げることを提示した。 以上の成果から、3.望ましい分配規制については、債権者保護の観点からは、分配規制に頼る場面は少ないのではないかという示唆を獲得した。その上で、株主の残余権者性、支配権行使のインセンティブ確保という従来とは異なる観点からでないと分配規制は基礎づけられないのではないかという本研究当初の見込みが、妥当なものであるとの実感を得た。ただし、この点についてまだ公表できる形の成果はない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降は、5.株主の残余権者性による分配規制の基礎付け、および、6.分配規制の趣旨の理解のシフトが具体的に影響する問題(各論)の拾い上げとそれぞれの論点の分析をおこなう。 平成28年度は、5.を行う。まず、本年2.の成果から、会計ルール毎の分配規制の意義を踏まえ、それぞれの分配規制に基づく株主の剰余金配当受領権の内容を画定し、それぞれの会計ルールの下での、株主の受け取るキャッシュフローの内容を整理する。この株主のキャッシュフローを、株主の残余権の内容ととらえ、それぞれの会計ルールの下での株主の残余権が株主の支配権行使のインセンティブとなっているか否かを分析する。 さらに、平成29年度以降は、6.の作業を行う。現段階では、以下の具体的トピックが挙げられる。①有価証券報告書虚偽記載があった場合の会社の株主(投資家)への責任、②過度のリスクテイク等の会社法429条責任、③会社法から倒産法へと原理が切り替わるトリガーとしての「支払不能」概念の意義、④株主の私的利益の規制のあり方。それぞれの論点について研究会で報告し、論文を公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
研究はおおむね順調に進行しているが、本年の研究計画中、3.望ましい分配規制についてのみ、具体的な研究報告等を行っておらず、そのための旅費が未使用である。 判例分析においてアルバイトを依頼する予定であったが大学院生の都合がつかず、申請者が自ら行った。その作業で時間をとられたため、本年の研究内容の1つであった3.望ましい分配規制について、研究の示唆は獲得したものの、公表できる形の成果は次年度に持ち越しとなった。 海外旅費についても、シカゴに2週間滞在したが、格安航空券の利用が可能であった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度の唯一の積み残しの3.望ましい分配規制について大至急、ペーパーを執筆し、その後、リフレクションを集めるために研究会報告を行う。そのための旅費として利用する。 また、今年度も判例分析にアルバイトを雇用する予定である
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Research Products
(18 results)