2017 Fiscal Year Research-status Report
変動する物的担保法制の現状分析と将来的展望:日仏間の比較法的検証を通じて
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15K03196
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
今村 与一 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (30160063)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 物的担保 / 抵当信用 / 非典型担保 / 無体財産質 / 人的担保 / 債権法改正 |
Outline of Annual Research Achievements |
今世紀初頭、奇しくも日仏両国において物的担保法制の、劇的とも言える立法上の変動があった。特にフランスの場合は、民法典の編別構成それ自体が様変わりした結果、伝統的な所有権中心の財産法から、国際金融取引への対応をも可能にする金融担保法の独立・強化へと重点を移行させており、従来のフランス民法典のイメージを見直さざるをえないほどの変貌ぶりとなっている。一見したところ、所有権留保・移転型の非典型担保(もともと民法典に定めがなく、金融実務の必要から生まれた物的担保)の盛行、これと反比例の関係にある典型担保、伝統的な物的担保を代表する抵当信用取引の退潮は、日本法にも見られる共通現象だが、その底流にまで降り立ち、現在進行しつつある法変動の諸要因を析出し、日本法の将来を見すえることが本研究の目的である。 これまでの文献調査から明らかになったのは、第二次大戦後のフランスでは、国家主導経済のもとでの租税債権や労働債権の優遇、広義の企業倒産手続の進展により、物的担保の「女王」と呼ばれていた抵当権が無力化し、銀行でさえもが有体不動産に寄りかかった信用取引から脱却するようになったこと、加えて、不動産を個人の生存条件として特別視する前世紀の福祉国家政策の浸透、EU域内に限らない世界経済の重圧が、無体財産質に象徴される新たな金融手法の実定法化(民法典改正)を促していること、こうした動向が、さらには、物的担保の物権性そのものに疑いの目を向け、強行法規化した人的担保、保証契約との線引きも難しくしているということである。 日仏物的担保法制の将来は、直近の債権法改正をはじめとする矢継ぎ早の立法により、きわめて見通しがたいものとなっているが、順延に次ぐ順延を余儀なくされたフランスでの実態調査の実施により、少なくとも現下の立法変動に対する各界の評価を交えて今後の方向性を見きわめることが可能になると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現地での実態調査は、諸般の事情により、最終年度であった平成29年度中にも実施することはできなかったが、文献・資料による調査を可能な限度一杯まで推し進め、フランス法に関する部分を一本の論文としてまとめることができた。当該論文では、2006年の民法典改正により、何がどう変わったのか、同年の改正から10年が経過した現時点でどう評価されているかを整理検討し、何よりその実績を検証してみた。しかし、たとえば、鳴り物入りで創設された流用可能抵当権(一定金額を限度として当初の被担保債権以外の債権をも担保することができる抵当権の流用を認めたもの)の法制度は、2014年、いったん廃止されたあと、9か月後には事業者向けに限定して復活するといった紆余曲折を経ており、文献・資料から得られる情報だけで実情を把握しようとしても、やはり限界がある。それだけに、いまだ裏づけのない事項については、質問項目として立ち上げ、来る現地調査において役立てたい。 日本国内における聞き取り調査も、司法書士、税理士等、実務家諸氏との学外研究会が休眠状態にあり、本研究の成果を社会的に還元し、同時にその成果を検証するためのシンポジウム等の企画とともに立ち遅れたままとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
期間延長を認められた本年度(平成30年度)の早い時期に現地調査を実現すれば、上記の論文では推測の域を出なかった事項についても裏づけ調査の意味をもたせることができよう。さらに、そうしたフランス法の確固たる現状認識に照らし、日本法の今後の動向を占うことも可能となるであろう。 そのためにも、本研究の成果発表の場となる企画を具体化し、実務家諸氏の現状認識とつきあわせる作業が必要不可欠となっている。これに成功すれば、本研究の所期の目的を果たせるものと考える。
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Causes of Carryover |
本研究計画のうち、フランスでの実態調査の順延を余儀なくされているため、次年度の実施に向けて、一人分の往復旅費、現地交通費、宿泊費等を確保する必要がある。また、日本国内での本研究の成果発表を兼ねたミニ・シンポないし研究会の企画も実施に至っていないので、その実現に向け、会場費等を確保する必要がある。
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Research Products
(1 results)