2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03198
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
香川 崇 富山大学, 経済学部, 教授 (80345553)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 時効 / 抵当権 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、抵当権の時効制度に関する判例学説を研究した。今年度は、特に、19世紀初頭から20世紀半ばまでのフランスとベルギーの状況を研究した。 フランス民法典旧2180条第4号第3文は、抵当権の設定された土地について、取得時効の要件をみたす占有がなされた場合に、その抵当権が時効によって消滅することとしていた。19世紀前半の学説には、同2180条第4号第3文を、①抵当権の消滅時効を定めた規定と理解する説と②所有権の取得時効の効果としての抵当権の消滅を定めた規定と理解する説があった。①②は、それぞれ、抵当権の法的性質に関する理解と結びついている。①説は、抵当権が分肢権(所有権の部分委譲された権利)に当たると理解する。そして、不動産の所有権の取得時効の完成によって、占有者が制限のない全面的な所有権を取得した結果、分肢権たる抵当権は消滅すると解する。他方、②説は、抵当権が分肢権に当たらないと理解する。つまり、債権者の権利である抵当権は、不動産の所有権の取得時効の完成によって消滅せず、抵当権の消滅時効を定めた同2180条第4号第3文によって消滅すると解する。 19世紀半ば、抵当権の改正提案が国民議会に提案された。その改正提案は、同2180条第4号を「抵当権は被担保債権の時効と独立して時効にかからない」と改めるものであった。改正提案は、最終的に成立しなかったものの、1851年12月16日のベルギー抵当法に影響を与えた。すなわち、ベルギー抵当法第100条第5号第3項は、「第三取得者のための時効は、不動産の権利に関する最も長い時効に必要な期間によってのみ完成する」として、短期取得時効による抵当権の時効消滅を否定するに至った。 このような立法の展開をうけて、19世紀後半のフランスでは、フランス民法典旧2180条第4号第3文の適用を制限するような解釈が展開されるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、抵当権の時効制度に関する判例学説を研究した。今年度は、特に、19世紀初頭から20世紀半ばまでのフランス判例学説の展開及びベルギー抵当法について研究した。 フランス法の検討において、以下のことが明らかになった。①抵当権の時効の法的性質に関する解釈は、抵当権の法的性質と関係していたこと、②フランスの19世紀半ばの抵当権改正提案は、被担保債権の消滅時効(原則30年)よりも短期の期間で抵当権が消滅することを否定していたこと、③19世紀後半の判例や学説では、短期取得時効の完成による同2180条第4号第3文の適用を制限する解釈が展開されるようになったこと。すなわち、19世紀後半の判例は、短期取得時効の成否が争われた事案で、被担保債権の期限の到来まで抵当権の時効が停止することを認め、19世紀後半の学説は、占有者が抵当権の登記を認識していた場合、抵当権に関する占有者の認識(悪意)が推定されるとした。 ベルギー抵当法の検討においては、同法が抵当権の登記によって、第三取得者が抵当権を認識していたと推定されるとし、その結果として短期取得時効の完成による抵当権の消滅が否定されるに至ったことを明らかにした。 以上の検討から、1955年の公示制度改革までのフランス及びベルギーにおいては、短期取得時効の完成による抵当権の消滅が問題となり、短期取得時効による抵当権の消滅を困難にするような解釈が示されていることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、1955年の公示制度改革から現在に至るまでの抵当権の時効に関する解釈を研究する。 まず、1955年の公示制度改革をうけて、フランス民法典旧2180条第4号第3文の解釈に関する変化の有無について検討する。これに関係する文献については、購入できるリプリントがあればこれを購入し、リプリントが購入できない場合は他大学の図書館に所蔵された書籍を複写し入手する。 次に、2006年の抵当権法改正については、インターネットなどを通じて立法資料を収集すると共に、これに関連する文献も購入し、これらの書籍が絶版であればなければ他大学の図書館にて複写し入手する。 また、抵当権法改正以降の学説に関する検討をするために、抵当権に関する近時の体系書や教科書を購入する。
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