2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K03199
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
樫見 由美子 金沢大学, 法学系, 教授 (20176829)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 責任無能力 / 不法行為 / 交通事故 / 未成年 / 心神喪失 |
Outline of Annual Research Achievements |
<研究の背景と研究内容>民法712・713条によれば、自分の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えない未成年者と、病気や障害等により心神を喪失している者(以下「責任無能力者」という)は、民法709条等に基づく不法行為(例えば交通事故等における他人の生命や身体、財産に対する侵害行為)が成立する場合であっても、これらの者は損害賠償責任を免責される。この場合には714条により責任無能力者を監督すべき義務を負う者に監督上の義務違反があれば、この者が被害者等に対して損害賠償責任を負う。こうした現行法の責任無能力者制度の下では、第一に企業の事業活動が活発化する中で、その被用者が事業の執行に際して病気等による心身喪失の状態で第三者に危害を与えたとしても、被用者には不法行為責任が成立しないので、715条の使用者責任が成立せず、被害者が救済されない事態が生じる事例や、第二に、交通事故で自動車の運転手が病気等により心神喪失となり自動車の運転制御ができずに第三者に危害を与えても被害者が救済されない事例が生じる場合がある。本研究は、こうした事例における責任無能力者制度の問題状況の解決を図るための解釈論を提示することを目的とする。 <研究経過>研究課題に対して、①わが国における責任無能力者制度の立法経過や比較法の状況を文献などにより調査し、この制度的根拠や制度適用の限界を検討した。次いで②立法後の学説・判例の展開の軌跡をたどり、そこから問題解決の基準を見出す検討を行った。③他大学の研究者や交通事故の実務担当者との意見交換を通じて解決の方向性を模索した。 <研究成果>上記の作業を通じて、問題解決の基本的な解釈論を以下の論考によって今年度の研究成果として公表した。「不法行為における責任無能力者制度について」高翔龍・野村豊弘・加藤雅信他編『日本民法学の新たな時代』星野英一先生追悼715-758頁(有斐閣2015年)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に当初予定していた研究計画の中で、民法712条・713条に規定された責任無能力者制度の沿革の究明と現時点の制度が妥当する法的限界の確定のための作業はほぼ完了した。加えて責任無能力者制度に関する紛争事例に関して、わが国の学説や判例・下級審実務の状況の分析も完了した。そして、交通法学会の場や、他の学会等における研究者・法曹実務などの担当者との懇談を行うとともに、損害保険実務に関する文献調査についても公益財団法人 損害保険事業総合研究所附属図書館等において必要な文献を収集するなどの作業を行った。そうした文献の調査と分析や他の研究者等からの示唆を踏まえた上で、研究成果として研究論文を1編を公表することができた。以上の理由により上記の「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、平成27年度の研究の継続と、ドイツ法における学説・判例の状況を文献で分析・検討するだけでなく、責任無能力者の損害賠償責任に関するわが国の保険実務や、可能であればドイツの保険実務の状況を実地に調査することを予定している。その際には自動車事故に関するADR(裁判外の紛争解決システム)についての実地調査を予定しているが、金沢大学の同僚である民事訴訟法担当の福本准教授もまたドイツに同行してもらうことで研究協力を得る予定である。
|
Causes of Carryover |
前年度残額が生じた「その他」の費目は、文献収集のための複写代金や通信費の使用を予定していたが、文献収集のための複写代金は自大学の文献で足りたことや他の研究者や関係機関の協力で、予想していたほどの費用がかからなかったことで節約できたために、6万円余りの残額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、ドイツへの調査を予定しており、文献複写や通信費、ドイツ語通訳のための謝金に通貨のレートの関係で費用が嵩む可能性があり、研究の進展に伴う物品の購入も予想されるので、それに充当する予定である。
|
Research Products
(1 results)