2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K03203
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Research Institution | Osaka Gakuin University |
Principal Investigator |
松川 正毅 大阪学院大学, 法学部, 教授 (80190429)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 相続財産 / 生前贈与 / 持戻し制度 / 親の扶養 / 寄与分 / 後見の担い手 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、相続と扶養に関する民法の規定について、研究対象としているフランス法を中心にして比較法的研究をおこなっている。相続に関しては、生前の贈与や、遺言などで特別の利益を与えることが、どのような場合に行われているのかについて、フランスにおいて公証人に対して聞き取り調査を行った。わが国と異なり、かなり早い段階で、子への贈与が行われている印象をもった(大学入学時が一つの時期である)。子の自立支援が、行われる場合には、早い段階で行われる傾向が確認された。 第二に、このような状況の中で、相続に際しての遺産分割では、生前の贈与は現実に価値として持ち戻されて計算され、遺留分減殺請求と並んで、被相続人の死亡時に、相続財産を形成することになる。このような制度では、いわゆる相続財産は、死亡時に存するもののみならず、範囲はより広く、相続において平等がはかられることになる。加えて、相続財産が明確なものとなり、紛争が生じうる可能性が少なくなり、実務上遺産分割が効率的におこなわれうることになる。この利点は強調すべき事柄であると思われる。子が数人いる場合には、相続における法的な平等制度が、相続人間で安心感を与えている。 第三に、扶養法に関しては、もっぱら金銭的な側面が民法の観点から考えられており、親の財産が不足する場合には、子に平等に分担させており、この意味では、わが国よりも厳格にこの義務の履行が図られている。子に、身の回りの世話を依存することは家族としての愛情の問題と位置づけられており、何ら対価や相続上の有利さを導くことはないという傾向がある。 家族としての愛情のレベルの問題と法的な金銭の問題が区別され、相続による財産承継の分野で紛争の度合いがかなり低い法制度になっていると思われる。 相続財産の明確化の理論については、論文がまとまりつつある。扶養法との関連ついては、仮説の段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、相続財産の問題については、ほぼ完了に近づいている。相続財産を明確にして、遺産分割における紛争を予防するという考え方を示す事ができると思っている。贈与などで、生前に無償処分がなされることがあるが、次世代の経済的な支援を早い段階で行っており、財産の承継が様々な方法で、相続開始以前にも行われている。この意味において、まとまった金銭による財産支援をなすことによって、新たな自立が生まれているように思われる。 第二に、扶養概念の分析に関しては、一種の常識のようであり、フランス法では意識して分析されておらず、この意味において文献による実証は困難であることが分かった。しかしながら、制度として、金銭給付を確かなものとする制度が充実しており、私的な扶養制度として参考になる。無償処分がなされていようとも、それは、将来の介護を念頭にしたものではなく、子の自立を図るものであると位置付けることができる。 第三に、高齢者の財産管理に関しては、後見の制度があるが、それの担い手が、専門職よりも家族構成員であることがほとんどであり、その意味を探求しつつある。家族の構成員が後見人になっているのは、多分に身上監護に配慮できるからと思われるが、この点の分析は最終年度に残された課題である。 第四に、相続と介護がリンクしていないことも確認できた(第二を参照)。また無償処分に関しては、対価性が本質的になく、見返り期待(扶養への期待)が薄く、対価なしの処分としての位置付けが明確になっている。相続人に対する無償処分は、単に遺産分割で平等性が図られており、それで十分であるという考え方がその行為の背後にあると分析できることが分かった。 老後の自立の精神は、フランスでは確立されており、金銭的なサポートをなすことが扶養であるという位置付けは、法制度の中で明確であり、その実証を、法的な制度としての観点から、論文にしつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度に向けて、以下の課題を追求するつもりである。 第一に、扶養法を基点にして、相続法の体系を整理する作業。いわゆるわが国の介護がらみの「寄与分」のような法的問題が、生じうるのかどうかという分析を行う。法定相続の平等性を修正する理論の必要性に関する研究である。 第二に、相続における平等を修正する必要性と思われている「事業承継」についての研究である。この事業承継の問題は、今までも文献での探求はしていたが、最終年度には、この点に関して、調査を行うつもりである。相続財産の平等性は、事業承継の問題の中で、どのように修正されつつあるのかの分析である。 第三に、財産管理に関して、「後見」制度の位置付けも確認しておきたいと思っている。世代間の自立が図られているが、フランスでは親が管理能力を失った場合には、配偶者や子が後見人になっている。障害者権利条約との関連で、被後見人の権利を制限するのではないかという問題もわが国では指摘されていることではあるが、後見の担い手として親族の意味を分析しておきたいと思っている。後見に求められているのは、民法上、身上配慮であるが、この考え方と介護の意味の相違である。 これらを最終年度の課題として、世代間の経済的自立(財産の承継と介護などのその見返り期待)の問題と法定相続に関して、総合的にまとめる計画である。
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Research Products
(4 results)