2016 Fiscal Year Research-status Report
スポーツ組織の持続的発展を支える法的基盤についての複眼的考察
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15K03205
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
志谷 匡史 神戸大学, 法学研究科, 教授 (60206092)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 典之 神戸大学, 法学研究科, 教授 (70203247)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | スポーツ運営団体 / 企業組織法 / 憲法規範 / EU法 / アメリカ法 / 立憲主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、プロ・スポーツの各運営主体および運営主体を統括する上部団体に関する意思決定のあり方を、EU法およびアメリカ法の比較法分析を通じて検討する共同研究である。平成28年度は、1.プロ・スポーツの各運営主体および運営主体を統括する上部団体に関する意思決定のあり方についての私法的研究、および、2.プロ・スポーツの各運営主体および運営主体を統括する上部団体に関する意思決定のあり方についての公法的研究に、研究の重点を置いた。 研究代表者・志谷は、プロ・スポーツ上部団体のガバナンス原理を私法の視点から検討する比較法的研究を行い、その成果を(志谷匡史、「経営決定権限の集中と牽制」『現在商事法の諸問題・岸田雅雄先生古稀記念論文集』523-546頁 成文堂 2016年)にまとめ、公表した。また、プロ・スポーツ団体に応用できるか否かという視点を得る手がかりとして企業組織法の諸原理を考察し、その成果を(志谷匡史、「委員会等設置会社である銀行の執行役の善管注意義務違反の有無」私法判例リマークス53号82-85頁 2016年)、および、(志谷匡史、「公開買付勧誘目的等でなされた株主名閲覧謄写請求の成否」商事法務2116号52-56頁 2016年11月)にまとめ、公表した。 研究分担者・井上は、プロ・スポーツ団体内部の統治原理を公法の視点から解明する手がかりとして、憲法規範を検証し、海外ワークショップの場で報告した(井上典之、「欧州の影響の下での日本の立憲主義の展開(Die Entwicklung des japanischen Konstitutionalismus unter dem europaeischen Einfluss)(独語報告)」2017年1月)。 平成28年度中、志谷と井上は、学内で適宜意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度において、全体的な研究項目のうち、研究計画書に記載したとおり研究の重点を次に置いた。すなわち、プロ・スポーツの運営主体を統括する上部団体に関する意思決定のあり方がこれである。 購入図書から得られた知見や他の研究者らとの間の意見交換を踏まえて、研究代表者・志谷は、プロ・スポーツ組織の統括組織について法的仕組みに内在する利害衝突の危険性を摘出し、株式会社一般について議論されているコーポレート・ガバナンス論がプロ・スポーツ組織に対しても適用され得るかどうか、その可能性と限界を会社法の視点から検討することができた。特に株式会社法において進展を見せている経営権限の集中が、経営効率性の視点から一定の評価をしうるものの、独断専行を生じ経営の安定を損なう危険性があること、そのため経営機構内部の相互牽制が必要であり、構成員の権利行使による抑制が制度的に保障される必要があることが解明された。これはプロ・スポーツ統括組織のガバナンスを検討する上できわめて優先度が高い検討項目であると評価できる。 また、研究分担者・井上は、公法の視点からプロ・スポーツ組織を検討する立場から、平成27年度から引き続きEU法の下でのヨーロッパ各国におけるプロ・スポーツ団体内部の統治原理について憲法規範を確認する作業を丹念に行い、憲法秩序自体がEU法の影響を受けて変容しているのではないかという問題意識を基礎に、ヨーロッパの議論が日本の立憲主義に対して影響を与えたか否か、影響の深度を検証し、それを通じて個々のスポーツ団体組織のみならずスポーツ法全体に与えうる影響を俯瞰するという研究成果をあげることができた。 以上により、私法および公法の両視点から研究成果をあげることができたことから、平成28年度における研究計画はおおむね順調に達成できたと評価できる
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究計画は、平成27および28両年度の研究成果を基礎に、研究代表者・志谷は、比較法の分析対象をアメリカに移し、制度的仕組みならびに団体頂上組織への帰属と牽制について私法的観点から考察し、それらの成果をフィードバックすることにより、株式会社を代表例とする営利企業として存立するプロ・スポーツ団体において内部統治の正当性保証のための制度的仕組みならびに団体頂上組織への帰属と牽制について私法的観点から考察をまとめる計画である。 研究分担者・井上は、平成27および28両年度の研究成果を基礎に、プロ・スポーツの各運営主体および運営主体を統括する上部団体に関する意思決定のあり方についての憲法規範の適用の成否・程度を対象に公法的研究を行う。ドイツをはじめヨーロッパ大陸諸国において組織面で公益法人と株式会社が並存しているプロ・スポーツ団体においてその内部統治の正当性保障のための制度設計のポイントならびに団体頂上組織との緊張関係の法的規律について憲法規範の適用という公法的観点から考察を行う計画である。 このように、研究代表者・志谷と研究分担者・井上は、協力してプロ・スポーツ団体内部、さらに団体頂上組織との関係性両面において、プロ・スポーツ組織を法的に複眼的に考察し、調査や意見交換等に基づき、本研究の総括を行う計画である。そのため、本年度の具体的支出項目および金額は研究計画に基づき計上する予定である。
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Causes of Carryover |
海外出張による意見交換・情報収集の計画が、研究課題に適切な相手先の選定に相当長時間を要したことから、当初計画のとおり平成28年度内に消化することができなかった。そのため、平成28年度には次年度への繰越しを生じた。その代わりに、文献の購入及びその分析に注力し、その成果を業績に反映させることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の経験を踏まえ、研究課題に適切な相手先の選定を終え、平成29年度内に海外出張による意見交換・情報収集を実施する。平成29年度は平成28年度から繰り越した金額を含めて海外出張旅費等に充当し、当初計上した金額に従い研究課題の取組みに向けて有意義に消化する計画である。
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