2015 Fiscal Year Research-status Report
無縁社会における財産管理・承継―統合的な法理論の構築を目指して
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15K03217
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
西 希代子 慶應義塾大学, 法務研究科, 准教授 (40407333)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高齢化社会 / 無縁社会 / 財産管理 / 財産承継 / 孤独死 / 民事法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、所有者の意思ないし存在が明らかではない者(行方不明者)の財産管理、相続人なくして死亡した者の財産承継等、無縁社会における財産承継・管理のあり方について検討することを目的とする。今日において極めて重要な喫緊の課題であるにもかかわらず、現在に至るまで、関係する法制度および問題点の整理・分析さえ十分に行われていない未開拓の領域であるため、本年度は、基礎的な調査・研究からはじめた。 具体的には、第1に、新聞記事、ルポタージュ等を参照し、無縁者の財産管理・承継が問題となった事件を探すなど現状把握に努めた。第2に、現在の法制度によって解決可能な問題とそうではない問題との区分を行った。第3に、前者について、各制度の概要を確認した。相続財産法人、不在者の財産管理、成年後見制度等のほか、信託等の民法外の制度についても検討対象に加えた。これらの制度の中には、成年後見制度、信託等、近年、法改正がなされ、関心が集まり、一定の研究蓄積があるものも含まれているが、それらの研究は、無縁者による利用を想定したものではない。また、不在者の財産管理については、現行法の問題点が指摘されたことは皆無に等しいこともわかった。そもそも、裁判所に選任される財産管理人は、一般に、不在者の「一種の法定代理人」として位置づけられ、不在者との間には法定の委任関係が成立すると解されているものの、それ以上の議論がなされているわけではなく、その法的構成の妥当性、具体的な職務権限等も不明であったため、検討を行った。これらのいわば予備的な調査・研究を通して、来年度以降、重点的に取り組むべき課題が見えてきた。 本来、未だ中間的な研究成果の発表ができる段階ではないが、財産承継に関しては、昨今の相続法改正の動向もふまえ、11月に、民法学研究会において、「相続法改正」と題する報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、予定していた調査・研究は、ほぼ行うことができた。他方、これまで、まったく注目されていないものの、民法上、利用可能性がありそうな多数の制度の存在に気付き、課題が増える結果となった。それらの基礎的な理論、利用可能性についての研究は、今年度内には十分に行うことができず、来年度に持ち越すことにした。 来年度は、比較法的調査・研究も予定しているため、綿密な計画を立てて研究を遂行することにより、再来年度のとりまとめに影響が及ばないようにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、次の2点を中心に研究を進めたい。第1に、諸外国における財産管理・承継に関わる制度の調査・研究を行う。特に、母法であるのみならず、日本と同様、高齢化も進んでいるフランス、信託等、民法以外の制度の利用も広く行われているアメリカ等の現状把握及び関係する法制度の調査から始める。法制度については、民法及び社会法関係の概説書から広く浅く知識を得ることに努めながら、日本法の参考になる制度を特定して検討を深める。現状については、新聞等の文献資料からある程度の情報を得た上で、一度渡航して、現地の研究者から情報提供を受ける予定である。いずれについても、休眠口座のように、(元)所有者の所在や意思が分からない財産の管理・活用の可能性等、具体的な事象を糸口として調査を進めていく。第2に、情報及び研究の方向性等に関する批評を受ける機会を確保するため、研究の折り返し地点である秋頃に、中間報告的な論文をとりまとめ、発表する予定である。 再来年度は、これらの研究をふまえて、現行法制度の問題点を再検討し、新しい制度の導入も視野に入れつつ、無縁社会における財産管理・承継の在り方をじっくり考えたい。個別の制度毎の検討のみならず、複数の制度の組み合わせなども考慮に入れながら、既存の法制度の活用によって解決できるのか、あるいは、新たな立法措置が必要なのかなどを明らかにしつつ、慎重に検討を進めたい。第2に、本研究の最終的な到達点を示す論文を作成する。複数回にわたり公表したい。そこでは、統合的な法制度の構築を目指して、現実的な解釈論の提示ないし立法提案を行う。
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Causes of Carryover |
第1に、予想外の調査必要事項が発見されたこと、学務との関係等により、予定していた出張(研究集会への参加等)を行うことができなかった。 第2に、年度内に中間報告としての意味も有する研究成果を欧文で公表することを予定していたが、上述のような事情により準備が遅れたため、校正費用等の支出が予定よりも少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度の早い時期に、今年度行う予定であった欧文原稿の執筆にとりかかる予定である。そのために必要な文献購入費用および校正費用等を支出する予定である。
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Research Products
(2 results)