2016 Fiscal Year Research-status Report
無縁社会における財産管理・承継―統合的な法理論の構築を目指して
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15K03217
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
西 希代子 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 准教授 (40407333)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高齢社会 / 無縁社会 / 財産管理 / 財産承継 / 孤独死 / 民事法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、筆者のこれまでの相続法・信託法を中心とする死後の財産承継に関する研究を基礎として、相続人がいない場合等の財産承継及び所有者の所在や意思が明らかではない財産の管理の在り方について検討することを目的としている。これらは、無縁社会と言われる今日における喫緊の課題であるにもかかわらず、現在に至るまで、民事法学の観点からは、関係法制度の整理、問題点の指摘等すら行われていない。そのため、今年度は、次の3点に重点をおいて研究を進めた。 第1に、昨年に続き、日本の現状分析を行いながら、関係する制度の調査及び整理を行った。特に、成年後見制度、不在者の財産管理制度等について検討を深めた。成年後見制度については、昨年の立法改正の背景、影響等について、実務家とも意見交換を行い、今後の課題も明らかにした。 第2に、日本と同様、高齢社会という問題に直面しているアジア各国の研究者と情報交換を行った。例えば、韓国において、韓国、台湾、中国等の研究者が集うシンポジウムに参加し、「高齢化社会における家族と財産―日本における高齢者の相続及び扶養をめぐる問題」と題する報告を行った(2016年度忠北大学校国際学術大会、2016年10月20日・21日)。子による親の財産管理・面倒見の在り方等について、国によって大きな違いがあることがわかるとともに、日本の問題状況の深刻さを改めて認識した。 第3に、外国法から示唆を得るべく、フランス法の関係制度の調査を始めた。財産承継制度に関しては、フランス法は日本法の母法の1つであるため、類似の制度も少なくないことがわかった。しかし、制度の概要は確認できたものの、相続財産法人の利用状況等、実態までは確認することができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本の現状分析及び日本法の関係諸制度の研究は順調に進んでいる。 しかし、外国法研究については、関係する制度の全体像をつかむことが容易ではなく、個別の法制度の詳しい研究までは行うことができなかった。とりわけ、諸事情により、渡航が困難となり、外国での調査を行うことができなかったため、実態の把握が思うように進まなかった。 来年度は、計画的に現地調査を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、できるかぎり早期に、外国法研究及び実態調査を終了させて、そこから得られる示唆を基に、研究のとりまとめを行う。 具体的には、フランス法の研究を数ヵ月で終えて、アメリカ法の研究を深めたい。すでに、基礎的な文献調査は終えており、アメリカ法には、持続的代理権、死後事務委任、生前信託、保険、後見、遺言執行人制度等、無縁者の財産管理・承継のための制度として設計されたものではないものの利用可能な制度が多数存在することが分かっている。もっとも、これらの制度の運用実態、一般市民の捉え方等は文献からは明らかではない。また、これらの制度の一部は日本法にも存在するものであり、日米両国のこれらの制度の母法は同一であるにもかかわらず制度の内容が大きく異なる理由等は全く解明されていない。制度を支える理論的背景、特に、所有者の意思の尊重とその限界、所有権の権能とその限界等に関する先行研究もない。現地調査及びインターネット等も利用しつつ、これらの問題にとりくみたい。 続いて、研究のとりまとめを行う。まず、外国法の調査・研究結果を1つの論文にまとめる。その上で、日本法に導入することが可能な制度等を中心に、日本法の既存の制度との役割分担等も含めて検討を深め、最終的な研究成果としてとりまとめたい。また、実際に運用可能であるか否かなど、理論面だけではなく実務面からの考察も必要であるため、研究会報告等の機会をいかして、実務家からもアドバイスを受ける予定である。
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Causes of Carryover |
国外情勢等、諸事情により、海外調査及び国外の研究会での研究発表を行うことができなかったため、旅費等の支出が少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
早い時期に渡航し、今年度行う予定であった海外調査の一部を行う予定である。その他、日程調整が困難な渡航予定先については、インターネット、メール等によって情報収集を行いたい。
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Research Products
(5 results)