2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03233
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
木村 仁 関西学院大学, 法学部, 教授 (40298980)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 信認関係法 / 信託法 / 忠実義務 / イングランド法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、受託者を含む受認者が、その事務を処理するにあたり、利益取得禁止の原則に違反して、受益者または本人の承諾を得ずに、第三者から賄賂や秘密の手数料を収受したときに、受益者がその利益につき、債権的な利得返還請求権に加えて物権的返還請求権を主張することができるか否かに関して、イングランドの学説を中心に検討した。 この点に関する学説は、1.受認者の一般債権者との利益調整の観点から、受益者に物権的救済を与えることを否定する説、2,Sinclair判決の三類型に依拠して、受認者が受益者の財産を利用することによって取得した利益および受認者が、受益者のために追求すべき事務処理の範囲内に属する機会を利用して取得した利益については、受益者の物権的返還請求権を肯定する一方で、受認者としての立場ゆえに与えられた機会を利用した利益については、債権的返還請求権を行使できるにすぎないとする説、3.常に受益者に物権的救済を肯定する説に大別される。3.物権的救済肯定説はさらに、物的関連性を肯定するものと、信認関係の特質を根拠とするものに分類される。それぞれの学説の概要を紹介し、その妥当性、問題点および有力な論者の理論動向を検討した結果、イングランドにおける学説の全体的傾向として、受認者が受益者の利益に反して利益を取得することに対する十分なディスインセンティブをもたらし、受益者の利益を確実に保護するために、一定の場合には、受認者が取得した利益の物権的な帰属を受益者に割り当てることが不可欠であるとの認識が有力になりつつあることが看取された。 上記の学説とともにイングランドの判例を加えて検討した研究成果として、「受託者の忠実義務と第三者からの利益取得行為(一)(二・完)」民商法雑誌152巻4・5号343頁、152巻6号457頁を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に沿って、平成27年度には、イングランド信認関係法における利益取得禁止の原則の内容およびその背景にある根拠を明らかにしたうえで、受託者を含む受認者が、その事務を処理するにあたり、利益取得禁止の原則に違反して、受益者または本人の承諾を得ずに、第三者から賄賂や秘密の手数料を収受したときに、受益者がその利益につき、債権的な利得返還請求権に加えて、物権的返還請求権を主張することができるかという点に関する判例の意義、射程、問題点などを検討した。 また、平成28年度においても計画どおり、University College London の Robert Chambers教授との意見交換を行い、研究課題に関するイングランド学説の動向を紹介、検討し、判例動向と併せて、その成果の一部を学術雑誌に公表することができた。信託財産に属する情報の利用が、受認者の信認義務違反となる基準の検討については、やや研究が遅れているが、全体として研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度については、信託財産に関する情報の利用につき、さらに検討を深める予定である。すなわち、受託者が、信託財産に関する情報を自己または第三者のために利用したとき、いかなる取引においていかなる情報の利用が忠実義務に違反するとして禁じられるのか、受託者の受益者に対する忠実義務と、固有財産で行う取引の相手方に対する義務との衝突をいかに考えるか、そして、情報の利用が忠実義務に違反するとされた場合、それは損失てん補責任を発生させるのか、あるいは競合行為に該当するのか、という問題である。信託実務も勘案しながら、考察を深めたい。 さらに、関連する問題として、受託者の忠実義務違反および権限違反を理由とする損失てん補責任の範囲についても、最新のイングランド判例を中心に、検討することを予定している。
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Causes of Carryover |
平成28年度中に刊行される予定であったイギリス信託法および相続法関連の図書数冊の刊行が遅れたため、これらを購入するための物品費に残額が生じた。 また、信託実務に精通したわが国の専門家に意見を求めて報酬を支払い、また必要な資料の複写およびこれらの整理のためにアルバイトの者を雇用し、謝金を支払う予定であった。しかし、信託実務家およびアルバイトで雇用する予定であった者との都合を合わせることができなかったため、残額が生ずることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に刊行されなかったが、平成29年度には刊行される予定のイギリス信託法および相続法関連図書の購入のために使用するつもりである。 また、信託実務家およびアルバイトで雇用する予定者との都合を早期に調整し、信託実務家との意見交換に対する報酬および資料複写・整理の謝金として使用することを計画している。
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Research Products
(2 results)