2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K03243
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
島並 良 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20282535)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 特許 / 社会契約 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度においては、「特許権は特許出願人が自己の発明を公衆に開示し、その代償として公衆から付与されるものであることから、特許権の発生はいわば特許出願人と公衆(およびその代理人(agent)である特許庁審査官)との間の社会契約であり、特許権の侵害は社会契約の違反である」とする見方の成否と射程について、社会契約思想を参照しつつ研究した。 周知のとおり、社会契約思想は、正義の基礎付け、政府の正当性、そして規範の正当化根拠等について、当事者の意思に基づく契約(contract)や合意(agreement)こそが究極の理由であるとする思想であり、その端緒は古代ギリシャにも見られるものである。もっともその黄金期は、ホッブス、ロック、ルソー、カントらにより自然権思想に基づく近代市民社会が構想された時期(近代社会契約論)、およびそれがいったん退潮したのちに、ロールズ、ノージック、ゴーティエらによって再生され現在にまで至る時期(現代社会契約論)に分けることができる。 本研究では、欧米所有権思想に強い影響力を与え、それが現代の知的財産権の基礎付けにまで援用されるロックの社会契約論、およびその分配的正義(社会正義)の理解が特に国際知的財産法における「南北」問題解消の局面でしばしば援用されるロールズの社会契約論を中心に検討した上で、それらが特許制度の正当化根拠や本質理解において持つ意味を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、米国フォーダム大学ロースクールにおける在外研究の後半(4月~8月)、および帰国後(9月~3月)における神戸大学での研究からなる。このうち、米国での研究では、米国社会契約思想の源流に遡った研究を実施し、同大学で研究会報告を行った。また、帰国後はその特許法への影響について文献を渉猟した。いずれも、ほぼ当初予定したとおりの進捗であり、本研究は全体としておおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には、「社会契約としての特許制度」という新たな性質理解が、特許法に現存するさまざまな解釈・立法上の課題の解決にどの程度役立つのかを研究する。具体的には、たとえば出願人の意思解釈という点ではクレームの解釈手法や出願経過禁反言等について、また合意への制度的介入という点では(キヤノンインクカートリッッジ事件で顕在化した)特許製品の修理加工による権利消尽の限界や、(アップル対サムスン事件で争われた)差止請求権の制限といった、特許法が抱える喫緊の課題について、それぞれ分析を加える。
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Causes of Carryover |
研究申請当初に予定していなかった米国での在外研究に従事し、渡米後は移動をほとんどしなかったことから、出張費等に支出する額が減少したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
すでに米国での研究を終えて帰国しているので、次年度に繰り越した資金を使って海外も含めた出張等を行い、有効に活用する予定である。
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