2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K03243
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
島並 良 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 教授 (20282535)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 特許 / 社会契約 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度には、社会契約としての特許制度、すなわち「特許権は特許出願人が自己の発明を公衆に開示し、その代償として公衆から付与されるものであることから、特許権の発生はいわば特許出願人と公衆(およびその代理人(agent)である特許庁審査官)との間の社会契約であり、特許権の侵害は社会契約の違反である」とする新たな視角(性質理解)が、特許法に現存するさまざまな解釈・立法上の課題の解決に対してどのように、どの程度役立つのかを研究した。 具体的には、たとえば(1)出願人の意思解釈という点では、特許請求の範囲(クレーム)の解釈手法や出願経過禁反言等について、また(2)合意への制度的介入という点では、キヤノンインクカートリッッジ事件でも顕在化した特許製品の修理加工による権利消尽の限界や、アップル対サムスン事件でも争われた差止請求権の制限といった、特許法が抱える喫緊の課題について、それぞれ分析を加えた。 また、特許出願人の意思に反して過小な特許権が付与された場合に、特許査定に対していかなる不服申立てが可能かに関する知財高裁の裁判例(知財高判平成27年6月10日〔アミノカルボニル事件〕)について、出願人と審査官の間の社会契約の成否および錯誤無効という観点から検討を行った。 さらに、同じ知的財産法制にあって、出願・審査過程を持たず無方式で権利が発生するため、社会契約的な契機が相対的に乏しい著作権制度についても検討対象として、特に権利制限規定のあり方に焦点をあてて特許制度との比較を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度前半までの米国フォーダム大学ロースクールにおける在外研究を受けて、平成28年度は全期間を神戸大学において、日本法を中心とした研究を実施した。このうち、同年度前半ではクレームの一般的な解釈手法および著作権制度との対比に、また後半ではキヤノンインクカートリッジ事件、アップル対サムスン事件、アミノカルボニル事件などの具体的な事件の検討に、特に注力した。いずれも、ほぼ当初予定したとおりの進捗であり、本研究は全体としておおむね順調に進展していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間に構築された研究基盤を基礎として、それを民法学における契約理論と接合し、また特許制度の直面する喫緊の諸課題に具体的に適用して解釈・立法上の実効的解決策を探求する。具体的には、クレームの解釈手法、出願経過禁反言、均等論、権利消尽とその限界、差止請求権の制限などの諸課題について、「出願人と公衆の意思に基づく拘束力とそれへの介入」という視点から、民法学の成果を参照しつつ、実践的な検討を加える。そのため、知的財産法分野を中心に、国内外の文献資料を収集し、先行文献を網羅的に分析するほか、外国法制への知見をさらに深める。また、国内外への出張による情報収集、ウェブサイトを通じた情報発信を行う。また、3カ年にわたる研究で得られた検討成果を、日本語/英語を用いて(雑誌・書籍)論文/学会報告等により発信する。
|
Causes of Carryover |
予定した海外出張の一部をとりやめ、次年度(平成29年度)に実施することとしたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記海外出張を実施する。
|
Research Products
(1 results)