2015 Fiscal Year Research-status Report
産科医療補償制度と医療訴訟の比較による医療紛争の救済制度の新たな構築
Project/Area Number |
15K03245
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
我妻 学 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (30211668)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 産科医療補償制度 / 医療訴訟 / 医療安全 / ADR |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2009年から施行され、2015年に6年目を迎えた産科医療補償制度の現状の分析および医療紛争に関する類似の補償制度の比較法的考察からなる。本年度は、比較法の対象として韓国を分析している。韓国は、我が国の人口の約3分の1であるが、2000年以後、人口あたりの医療訴訟の新受件数は、我が国の約2倍に増加している。この背景には、我が国と同様に医学の進歩、患者の権利意識の高まりおよび医師と患者の関係の変化などが指摘されている。増加する医療紛争に関し、防御的医療などの問題点も指摘されている。そこで、1999年に消費者院による患者救済制度、2011年に医療紛争調停仲裁院が設けられ、裁判外の紛争解決制度(ADR)が拡充されている。さらに、我が国における産科医療補償制度などを参考にして補償制度を設けている。このように我が国の現状と類似点が多い韓国について、ソウル地方裁判所、医療紛争調停仲裁院および消費者院などに対し、医療紛争の現状と対応策について聞取調査を行った。あわせて、我が国における産科医療補償制度、医療訴訟および産科補償制度に関し、韓国における医療訴訟を主に担当している弁護士に向けて、講演を行った。 2015年までに公表されている原因分析報告書を分析し、具体的に検討を加えることを当初予定していた。しかし、産科医療補償制度を行っている日本医療機能評価機構が原因分析報告書の全文版の開示手続に関し、2015年度に倫理委員会などの承認を事前に求めるなどの変更を加えたため、開示手続に要する時間も勘案すると実質的に2015年度内に原因分析報告書全文版の開示を求めることは不可能な状況となった。そこで、本年度は、2016年度に実施する事前の準備作業として産科医療補償制度のHPに公表されている原因分析要約版を分析し、本研究と関連する事案を分析する作業を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、韓国における補償制度、調停手続と裁判所に対して聞取調査を行い、医療紛争の現状と対応策に関して、医療訴訟専門の裁判官および弁護士と意見交換をしている。 これに対し、当初予定していた2015年までに公刊されている原因分析報告書全文版を分析することは実現できなかった。しかし、これは、専ら産科医療補償制度を行っている日本医療機能評価機構が、原因分析報告書の全文版の開示手続に関し、2015年度に変更を加えたことによるものであり、本年度は、産科医療補償制度のHPに公表されている原因分析要約版を分析し、本研究と関連する事案を分析している。あわせて、2016年度に原因分析報告書全文版の開示を申請する事前の打ち合わせを日本医療機能評価機構と既に行っており、2016年度に原因分析報告書全文版の調査を行うことは十分可能な体制を整えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度に予定していた公刊されている原因分析報告書全文版を分析し、産科医療補償制度の現状を分析する予定である。既に、2015年において関連する症例を絞り込む作業を行っており、原因分析報告書全文版の収集もできるだけ円滑に行うように努める。 東京地方裁判所および大阪地方裁判所における医療集中部での事件処理に関して、聞取調査を行う予定である。 比較法に関しては、イギリスおよびアメリカにおける制度を調査する予定である。
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Causes of Carryover |
2015年までに公刊されている原因分析報告書全文版を分析し、具体的に検討を加えることを当初予定していた。しかし、産科医療補償制度を行っている日本医療評価機構が、原因分析報告書の全文版の開示手続に関し、2015年度に変更を加えたため、開示手続に要する時間を勘案すると2015年度内に原因分析報告書全文版の開示を求めることは実際上不可能な状況となり、開示に要する費用および分析に要する費用として計上していた予算を執行することが困難となった。本研究の根幹をなすものであるので、他の予算に転用するのではなく、次年度使用とすることにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額が生じた分に関しては、2016年までに公刊されている原因分析報告書全文版まで調査対象を広げ、開示に要する手続費用および分析するための費用として主に執行する。あわせて、大阪地裁などの医療訴訟集中部の裁判官に対する旅費などに執行する。 今年度分の予算は、イギリスおよびアメリカの調査および文献収集などに執行し、全体として適切に予算を執行する所存である。
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