2016 Fiscal Year Research-status Report
グローバル化する国際社会における実効性ある海洋法秩序の構築―EU海洋環境法の示唆
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15K03253
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
佐藤 智恵 明治大学, 法学部, 専任准教授 (80611904)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 海洋法 / EU法 / 環境法 / 国連海洋法条約 / UNEP / ABNJ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究の第二段階として、EUの海洋環境法が周辺国に与える法的影響について財政支援等の政策的な観点を含めた現状分析を行った。EUは、実効性ある海洋環境の保護を実現するため、1970年代からUNEP(国連環境計画)を通じた地域的な海洋環境保護条約に参加し(例:地中海条約、OSPAR条約等)、それらの地域的な条約に基づく海洋環境保護制度の構築に大きく貢献している。第二段階では、第一段階で明らかにした国際法及びEU法の枠組みを念頭に、EUが参加する地域的な海洋環境保護条約のうち、地中海条約、OSPAR条約、ヘルシンキ条約について、海洋環境保護に関する原則、適用範囲、環境損害が生じた場合の責任主体・損害賠償の範囲、履行確保及び紛争解決制度を整理し、それぞれの地域的な条約へのEU法の影響について検討した。その結果、OSPAR条約及びヘルシンキ条約に関し、EUの海洋環境法・原則を踏襲している傾向が明らかである。しかしながら、地中海条約は、非EU加盟国が多数であるため、法的拘束力のある形(決議等)でEU海洋環境法・原則を条約加盟国に義務付ける傾向は、先の2条約と比較すると小さいことが明らかである(例外はオフショア議定書)。 さらに、グローバルに海洋環境保護をけん引する国連、UNEP等の国際組織の動向の整理も昨年度に続いて行った。特に国連では、国家管轄権区域外における海洋生物(遺伝)資源に関する条約作成が本格的に開始するタイミングであるため、本研究が対象としている、伝統的な海洋環境保護以外の海洋環境に関するルールにも検討対象を拡大した。本件に関し、EUは先進国の中でも非常に積極的な立場であるとの印象を得た。 このように当初より若干検討対象を拡大したことにより、より多角的な視点から、本研究テーマの検討を行うことができると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究の第二段階として、EUの海洋環境法が周辺諸国に与える法的影響を明らかにすることを試みた。具体的には、地中海条約、OSPAR条約、ヘルシンキ条約という、EUが締結する地域的な海洋環境保護条約下で採択された二次法(決議等)の規律対象、履行確保及び紛争解決制度に関する議論の整理を行った。それらの条約に共通する海洋環境法・原則を抽出し、国際法・EU法と比較検討することにより、EU周辺諸国へのEU海洋環境法の法的影響を明らかにすることを試みた。 その結果、OSPAR条約及びヘルシンキ条約に関し、参加国のほとんどがEU加盟国又はEEA参加国であるため、EUの海洋環境法・原則を踏襲しており、EUの指令・規則を実施していることが明らかである。しかしながら、地中海条約は、北アフリカ諸国を含み、非EU加盟国が多数であるため、法的拘束力のある形(決議等)でEU海洋環境法・原則を条約加盟国に義務付ける傾向は、先の2条約と比較すると小さいことが明らかである(例外は、オフショアにおける資源開発に関する議定書)。 以上のとおり、当初計画どおりに分析は進んでいるが、地域海条約での交渉を担当する欧州委員会の実務者との意見交換を行うことができなかった点が、本研究の進捗状況がおおむね順調である理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、当初の計画どおり、第三段階の「海洋環境保護法の適用に関する国際司法裁判所等の国際裁判所及びEU裁判所の判例、学説の整理」を行う。さらに、国連で進められている、国家管轄権区域外における海洋生物(遺伝)資源に関する条約作成の動向もフォローすることにより、未来志向の海洋環境保護に関するルール作りのあり方を検討することとする。そのうえで、それらの検討結果を踏まえ、「海洋環境保護を実効的に行うための法的枠組みを提唱」することをめざす。
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Causes of Carryover |
本研究は、初年度の10月21日正式に採択されたため、研究計画のうち、特にEU機関の担当者との意見交換を目的とした、海外出張の予定が当初より遅れているため、研究計画で予定していた支出額と差異が生じている。 また、購入予定の書籍に関し、市販されている書籍を購入せずとも、海外出張で知己を得ることができた著者又は関係機関から無料で入手することができたため、書籍以外の項目に支出することが可能となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、研究計画最後の年であるため、提言をより、実現性のあるものとするためにも、積極的に実務者を含む関係者との意見交換を実現する予定である。また、MaxPlanck研究所が発行する国際法に関する学術雑誌に英語で投稿するため、英文校閲費等に支出を予定している。
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