2015 Fiscal Year Research-status Report
福祉国家は政治をどう変えたか?:日欧比較による「フィードバック」効果の体系的分析
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15K03266
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中山 洋平 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (90242065)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古賀 光生 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 講師 (50645752)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 福祉国家 / フィードバック / 西ヨーロッパ / 日本 / 近接比較 / 政治史 / 社会保険 |
Outline of Annual Research Achievements |
失業保険の「ヘント・システム」が労組の組織を強化した例に代表されるように、社会保障制度が導入され、ひとたび作動し始めると、政党や官僚制、職能団体などの組織や行動を規定し、政治構造を変えるに至ったとされる例が少なくない。しかし、こうした福祉国家の「フィードバック」効果に関する知見は、これまでは、各国毎の文脈に限定された、いわばアドホックな歴史解釈に留まっていた。これに対して本研究は、西欧や日本の他の事例の比較分析に適用することで、こうした知見を検証し体系化し、福祉国家の比較研究に新たな地平を開くことを目指す。 具体的には、日欧各国において、①19世紀末から1970年代くらいまでの時期について、段階的に進んだ福祉国家の構築過程が、政党・職能団体・自治体などの政治組織・団体に対してどのような作用を齎したかを比較政治史的に分析する、②1980年代以降の福祉国家の削減・市場化改革が有権者の政治的態度・行動に対していかなるインパクトを与えたかを計量分析で明らかにする、という2つの手法を取る。 平成27年度には、①の分野については、日本と西欧主要諸国について、社会保障の各分野の制度発展に関する文献・資料(同時代のものを含む)、および政党、職能団体、自治体などの政治的組織・団体に関する文献・資料の収集と解析を進めた。福祉国家のフィードバック効果に関する解釈・仮説を蓄積しつつ、先行研究が手薄な時期・分野について、その穴を埋めるための現地調査(文書館・図書館など)の計画を立案した。②の分野については、90年代以降の福祉改革について、先行研究の収集・サーベイを幅広く行った。 成果をもとに、①について中山が、②について古賀が試論的なペーパーをまとめた(論文集の一部として近刊予定)。 こうした文献調査と研究サーベイを通じて、次年度以降の実証部分を支える作業仮説を構築し、具体的な作業計画を立てることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上に述べた通り、文献調査と研究サーベイを通じて、次年度以降の実証部分を支える作業仮説を構築し、具体的な作業計画を立てることができたと考える。 ただ、文献調査・解析や研究サーベイは、対象領域が極めて膨大であるため、当初予想した以上の時間を要していることは否定できない。 また、昨年11月のパリ同時多発テロ以後、西ヨーロッパの治安状況が予断を許さなくなったことなども加わって、結果として、今年度の終盤に予定していたヨーロッパ現地での調査を次年度初めに延期せざるを得なくなった。 とはいえ、こうした作業の遅れはごく小さなものであり、おおむね順調と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
対象領域が極めて膨大であるため、文献調査や研究サーベイにはなお相当の時間を要する見込みであり、次年度以降も継続して進める必要がある。 とはいえ、次年度は予定通り、実証作業に力点を移し、平成27年度の作業を通じて構築された作業仮説を支えにして、①の分野に関しては、ヨーロッパ現地での資料調査と、収集した資料の解析を進め、主要な対象となる4カ国について、比較政治史的分析の基礎を構築する。②の分野に関しては、現地調査で資料を収集すると共に、先行研究サーベイの結果をもとに、福祉改革の類型化について中間的な知見をまとめる。同時に、有権者の政治的態度へのインパクトを計測するための計量モデルとデータセットの吟味に入る。
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Causes of Carryover |
関連の文献・資料や先行研究は、所属大学の図書館や電子ジャーナルなどの形で入手可能なものだけでも実に膨大な分量に上ることがわかり、それらの解析やサーベイに予想したより遥かに多くの時間を要した結果、購入が必要な図書・資料の発注が遅れ、年度内に執行されない結果となった。 また、昨年11月のパリ同時多発テロの影響で、年末以降に予定していたヨーロッパ現地における資料調査・収集のための出張を延期せざるを得なくなり、海外旅費の執行が来年度にずれ込むこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
図書・資料の購入は今後、順調に執行できる見込みであり、使用計画の遅れは速やかに取り戻せると考えている。 ヨーロッパでの資料調査・収集については、現地の状況によるが、現時点では楽観的な見通しを持っており、今後、精力的に出張を進めて、速やかに使用計画の遅れを取り戻していく考えである。
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