2017 Fiscal Year Research-status Report
福祉国家は政治をどう変えたか?:日欧比較による「フィードバック」効果の体系的分析
Project/Area Number |
15K03266
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中山 洋平 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (90242065)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古賀 光生 中央大学, 法学部, 准教授 (50645752)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 福祉国家 / フィードバック / 西ヨーロッパ / 日本 / 近接比較 / 政治史 / 社会保険 |
Outline of Annual Research Achievements |
失業保険の「ヘント・システム」が労組の組織を強化した例に代表されるように、社会保障制度がひとたび作動し始めると、政党や官僚制、職能団体などの組織や行動を規定し、政治構造を変えるに至ったとされる例が少なくない。こうした福祉国家の「フィードバック」効果に関する知見は、これまでアドホックな歴史解釈に留まっていたが、本研究は日欧の事例の比較分析を通じて、こうした知見を検証し体系化することを目指す。 日欧各国において、①19世紀末から1970年代にかけて、福祉国家の構築過程が政党・職能団体・自治体などにどのような作用を齎したかを比較政治史的に分析する、②1980年代以降の福祉国家の削減・市場化改革が有権者の政治的態度・行動に対していかなるインパクトを与えたかを明らかにする、という2つの手法を取る。 平成29年度には、①の分野については、前年度に引き続き、日仏、独墺の2組の対比較を通じて、社会保障の制度発展のフィードバック効果を描き出す作業を進めたが、この過程で、a)中心的事例であるフランスについては、戦後の福祉国家の膨張が中央地方関係を分権化するという現象がフィードバック効果として最も顕著であることが明らかになった。この現象はこれまでの行政学の通説を覆すもので、言い換えれば、他の国には見られない独自のパターンであるため、この部分に関する研究成果は一旦、比較の枠から外し、単著として公表する道を選択した。また、b)下記(「進捗状況」と「次年度使用額」欄」参照)に述べる経緯で、同じ先進国たるアメリカ合衆国についても、同じ観点から、現地での史料収集を伴う実証分析を開始した。以上の作業を踏まえた暫定的な成果を、ハーヴァード大学の研究会における報告として纏めた。 ②の分野については、現代の福祉改革と新急進右翼政党の伸張に関する前年度の事例分析の成果を踏まえ、これに計量分析の裏付けを与える作業を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
29年度は、上に述べたように、まず、a) 本研究課題に密接に関連する副産物として、戦後フランスにおいて、福祉国家の膨張が60年代後半以降、分権化を齎すに至る過程を明らかにする単著を刊行した。また、下記(「次年度使用額欄」)にも述べるように、b)本研究課題に密接に関連する新たな研究として、アメリカ合衆国についても同じ視角から、現地での資料収集を伴う実証分析を開始した。以上2つの、本研究課題の「スピンオフ」にあたる研究作業にかなりの時間を割いたため、本研究課題の「本筋」に当たる作業はペースダウンせざる得なかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記のように、スピンオフの研究作業のために、本筋に当たる本研究課題の作業計画には遅れを生じることになったものの、こうした、いわば「補助線」をきちんと引いたことで、その分析は精度と深みを増した。30年度はこうした成果を綜合して、ペーパーや論文などとして公表する作業を進める。①の分野については、補充的な文献調査や現地資料調査を行った上で、アメリカ合衆国におけるフィードバック効果のパターンをも踏まえながら、社会保障の分野毎に制度発展の齎す政治的インパクトを定式化する。成果を複数のワーキング・ペーパーに纏めて国内外で報告を行いつつ、紀要論文の準備を進める。②の分野についても、これまでの研究成果を総合し、事例分析と計量分析を有機的に結合させた論文を執筆して、国内外の専門誌への投稿・掲載を目指す。
|
Causes of Carryover |
(理由)本研究課題は当初、日欧のみを分析対象としていたが、研究を進める中で、同じ先進国たるアメリカ合衆国の比較分析上の重要性を改めて認識するに至った。そこで本年度後半に、本研究課題に密接に関連する新たな研究として、アメリカについても現地での史料収集を伴う実証分析を開始した。この新たな研究の立ち上げに予想以上の時間を要したため、本研究課題の本来の作業(欧州出張等)はペースダウンせざる得ず、1年間の研究期間延長が必要となった。 (使用計画)主に①の分野に関して、補充的な文献調査や現地資料調査を行う。これと平行して、纏めた研究成果を海外の学会で報告したり、専門誌に投稿する際の経費も見込んでいる。
|
Research Products
(2 results)