2016 Fiscal Year Research-status Report
ローカルレベルの政党支持に見るイギリス政治の構造変容-政治的「疎外」の検証
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15K03269
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
若松 邦弘 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90302835)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 政治学 / 政治史 / イギリス政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、現行のイギリス政治における政治的な「疎外」の構造を明らかにすべく、2000年代以降に地方選で一定の支持を得た小政党を軸に、政党システムならびに有権者との関係の変容を検討することで、ローカルレベルでの政党支持の変容を特徴づけるものである。2000年代半ば以降の各種選挙(下院選挙、地方議会選挙など)で小政党の得票が注目された地域の選挙区を対象に、過去の事象の遡及的な検討と、近年実施の選挙に関連する事象の検討とを並行させる形で分析を進めている。 本年度は当初の予定通り、近年の地方議会選挙で連合王国独立党UKIPの伸長が顕著であるイングランドの中部、東部、ロンドン東郊を対象として、前年度に引き続き、選挙区のマクロデータ(社会統計と選挙資料)による外形把握と、ローカル資料(モノグラフ、地域史、コミュニティ資料、新聞)による過程の分析を行う形で、自治体選挙に見られる政党間競争の変化を検討した。また6月にEU離脱をめぐる国民投票が実施され、他の機会には得られない貴重なマクロデータを多く収集できることとなったため、多くの時間をこの投票に関するデータの分析にあてた。以上の作業過程で、ロンドンやイングランド北西部を中心に現地資料の収集を行った(7月、11月、3月)。 これらの作業から、前年度確認していたイングランド中部以北での労働党支持層からの支持の流出がさらに拡大していることが確かめられた。とくに国民投票実施がもたらしたイギリス政治の争点変化は顕著と考えられ、従来の緊縮財政策をめぐる対立がEUへの姿勢をめぐる対立へと大きく変化したことによって、労働党から排出された浮動票が大量に存在することがはっきりした。政治的「疎外」に関するこの新たな状況を背景に、地方政治における政党間競争も大きく変化しており、地方政治レベルでは自民党と保守党への支持の移動が確認されることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、6月に急遽実施された国民投票から本研究に関係するデータを大量に得られることとなった。このため、当初の計画を上回る形で、全国レベルでの政党支持流動化に関するデータの収集と分析、ならびに成果公開を進めることができた。 他方で、昨年度の作業の結果を踏まえて、本年度の実施対象に加えることを計画していたスコットランドにおける政治的「疎外」の分析は、上記の状況に起因する時間の制約から作業を延期した。これについては、2017年5月に同地の各自治体で実施される議会選挙の結果を踏まえ、次年度中に実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
従前の計画通り、小政党の得票の伸びが顕著である地方議会選挙とその選挙区の状況に関する分析を継続し、成果公開を図る。 H29年度の作業は、同年5月実施の地方議会選挙の結果を過年度の同種選挙と対照させる形を中心とする。検討対象にはスコットランドの自治体を加える。同地域は政党支持の変化がとりわけ顕著であり、2015年の総選挙、2016年の地域議会選挙についての選挙区レベルの結果分析からは、国政の既存政党からの支持の乖離と他政党への吸収が明瞭に生じている。この点で、政治的「疎外」の分析に適した事例となっており、分析を2016年の地域議会選挙と2017年の地方議会選挙のデータを用いて進める。 また最終年度であることから、過年度の分析を踏まえ、近年のイギリスの政治的「疎外」について包括的に論点を整理し、論文・口頭報告の形による成果公開を積極的に進める。これにあたっては、対象時期の政治構造の変化をイギリス政治史の1局面として明らかにするという本研究の目的に照らし、ローカルレベルでの支持の流動化と固定化の観点から分析を再検証し、総体的な解釈を導き出す。
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Causes of Carryover |
本年度は、直近の状況の分析に重点を置くことになったため、分析資料はインターネットを通じた入手が相対的に多くなり、収集費用が抑えられた。またそのような紙媒体資料の購入(物品費)や人件費(謝金)について、本年度は使途に柔軟性のある別資金(学内研究費)を多めに使用することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
費目に沿った形で29年度の資金として充当、使用する予定。
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