2018 Fiscal Year Research-status Report
世界から見た日本政治:政党公約の国際比較・時系列比較分析
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15K03270
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
谷口 尚子 慶應義塾大学, システムデザイン・マネジメント研究科(日吉), 准教授 (50307203)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 選挙公約分析 / 政党政治 / 国際政治比較 / 左右イデオロギー対立 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、第一の研究(政党公約データから複数の対立軸を析出し、内外の政党の政策位置の特徴と推移を把握)と第二の研究(各国各党と有権者の左右イデオロギー位置を計算、両者の推移と関係を分析)から成る。平成27-29年度は両研究をそれぞれ進め、日本政治学会や日本選挙学会等で成果を報告した。 平成30年度は国際学会でも発表した(Winkler and Taniguchi, The Times They are Changing in Japan: Electoral Policies between Change and Stability, the International Political Science Association World Congress, 2018)。特に日本の衆議院の選挙制度改革が政党公約に与えた影響に注目した場合、比例代表制下に似た選挙結果を生む中選挙区制下では各党の政策位置は分散的で、左右の政党の政策の開きは大きかった。しかし改革後は、小選挙区制下で議席増を狙う大政党の政策はやや中央に収斂し、比例代表制下で支持票を維持する中小野党の政策は分散したままであった。つまり小選挙区比例代表並立制というハイブリッドな制度は、政党の規模によって異なる選挙戦略・政策アピールのあり方を促したといえる。 第二の研究については、OECD各国の政党公約データから各党の左右イデオロギーを計算し、それらに選挙結果で重み付けることで、各国の有権者の「中位投票者」の左右イデオロギーを求めた。その変化を比較したところ、有権者の左右変動が政治・経済両面で一致している国もあれば、近年乖離する国も見られ、最近のポピュリズム現象の理解にも示唆を与える結果を得た。これらの研究は学会発表後に論文化している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「順調に進展している」と評価した理由は、申請した研究内容・目的・計画に沿いながら各研究を進め、国内外の学会等で成果を発表してきたことにある。政党公約データから政党の政策を国際的・時系列的に分析する第一の研究については、谷口・ウィンクラー「世界の中の日本の政党―政党公約コーディングによる国際比較」(平成27年、日本選挙学会)、谷口・ウィンクラー「政党公約の国際比較―日本の政党公約の相対化と方法論的課題」(平成27年、日本政治学会)として国内で発表後、平成30年にはWinkler and Taniguchi, The Times They are Changing in Japan: Electoral Policies between Change and Stability(the International Political Science Association World Congress, 2018)として国際学会で発表した。 政党公約データと選挙結果を利用して有権者の政策選好を推定するという第二の研究については、澁谷・谷口・ウィンクラー「政党マニフェスト・コーディング・データを用いた有権者のイデオロギーに関する国際比較・時系列比較」(平成27年、日本選挙学会)、澁谷・谷口・ウィンクラー「有権者の政策選好の推定」(平成27年、公共選択学会)、澁谷・谷口・ウィンクラー「『中位投票者』の変動に関する国際比較-政党公約データを用いたパネルデータ分析―」(平成28年、日本選挙学会)という形で発表した。 平成30年度はこれらの学会発表の成果を論文化し、国内外の雑誌に投稿を行った。さらに日本経済新聞の『経済教室』において、日本の政党の政策の変化についてわかりやすく解説した。このように研究を順調に進めると共に、成果を広く知らせることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題遂行の最終年度である平成31年度は、第一の研究と第二の研究を統合し、政党の公約・政策と有権者の選好が、どのような要因によって変化してきたかをより詳細に分析する。経済・社会・政治といったマクロ要因が影響する他、政党の政策主張や成果と有権者の選好が相互に影響し合うことも考えられる。先行研究によれば、政党の政策主張と有権者の選好は反発する傾向(政治が右傾化すれば世論が左傾化する、といった逆振れ)も指摘されるが、それは真実か、国際的・時系列的に分析したい。また、マクロ変数の統計解析だけでなく、政党の政策に有権者がどのように反応するか、調査・実験といった他の手法も織り交ぜていく。 そして、こうした研究の成果を順次刊行していく。投稿論文の精緻化を進め、内外の学術雑誌で発表する。また、現在研究代表者は日本政治学会の学会誌『年報政治学2020年―1号』の編集委員長を務めており、「現代の政治的対立軸をいかに掴むか」をテーマとする特集号を企画している。この号ではとりわけ、左右対立軸の変容の分析と新しい対立軸の発見を目指しており、関連する論文を収集中である。申請者も、本研究課題でもある政党の政策と有権者の選好の対立軸の変容分析をトピックとした論文を執筆している。この特集号自体は2020年に刊行予定だが、本研究課題の成果や関連する重要な研究群を整理・報告し、研究者間で共有する重要な機会になると考えている。
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Causes of Carryover |
人件費(社会保険料)の計算結果が未確定な部分があり、若干の残金が生じた。来年度の人件費と合わせて使用する。
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