2016 Fiscal Year Research-status Report
「たちの悪い問題」への適用可能性の検討を通じた「ガバナンス形成」理論の研究
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15K03272
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小野 耕二 名古屋大学, 法学研究科, 名誉教授 (70126845)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ガバナンス / 紛争処理 / 政治的能動性 / たちの悪い問題 / 政治の重層性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は現代社会の問題状況を見据え、その解決が困難と思われる「たちの悪い問題(wicked problem)」と称される社会問題に対処するために、多面的な政策形成過程を動態的に分析するための「ガバナンス形成過程モデル」の構築をめざすものである。3年の研究期間のうち、2年目に当たる平成28年度には、「紛争処理のための課題志向型実践的政治モデル」構築のため、「政治」概念の検討作業を集中的に行った。そのために、アメリカ出張とヨーロッパ出張を一度ずつ実施し、本研究課題に関する最先端の研究者との集中的討論を実施した。この2回の海外出張で、当初予定していた「国際的ワークショップの開催」に代えたのであるが、その成果は十分なものであった。 この作業に加え、国内でも最高裁判所からの辞令を受け、平成28年4月より「民事調停委員」としての活動を開始することによって、本研究代表者はさまざまな社会紛争に対する「紛争処理のための調停モデル」を作成しつつそれを実践的に検証する機会を得ている。さらに、所属学会での活動と、学術会議政治学委員会政治過程分科会での活動とを行うことによって、研究計画は順調に遂行されている。 平成28年度の研究成果としては、「政治への新たな視座-政治の重層性の把握をめざして-」を平成28年12月に公表した。これは、「実践的政治モデル」構築の前提作業としての「政治」概念の理論的再検討を行ったものであり、これにより最終年度の作業へ向けた準備は整ったといえる。この、やや抽象的とも思われる「政治」概念再検討の作業を踏まえ、本研究の最終年度である平成29年度には、個別具体的な社会紛争に対して、その紛争処理を進めるための一助となり得る具体的で実践的な「ガバナンス形成過程モデル」の構築を試みる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた「国際的ワークショップ」を開催することはできなかったが、それに代えて2回の海外出張と、数回の国内出張とを実施することによって、本研究分野における最先端の研究者と個別的に議論する機会を得ている。その結果、3年計画の2年目における獲得目標であった「政策形成過程の動態的分析モデル」の提示を、暫定的にであれ行うことはできた。平成28年に公表した論文で提示した「政治の重層性モデル」は、未だに抽象的レベルにとどまっており、それを最終年度において一気に具体化する作業が残されている。そのために、本研究は「当初の計画以上に進展している」とまでは言い難いが、作業は着実に進展しており、またその作業のための資料収集の作業や、国内外における人的ネットワークの構築作業はほぼ順調に終えつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度が、本研究の最終年度となるため、今年度は「最終的成果」の提示へ向けて努力する予定である。具体的作業としては、以下の2点を予定している。 まず第1に、昨年度まででとりあえずの作業を終えた「政治の重層性モデル」を踏まえ、そこから「さまざまな社会紛争に対する学際的で実践的な紛争処理過程モデル」の提示へ向けて、国内外の研究者との討論や収集した資料の読解を通じて、理論的な作業を進展させる。 第2には、このような理論モデルを「具体的な紛争処理過程」と結合するために、本研究代表者が継続的に行っているミクロレベルでの「民事紛争への調停委員としての活動」や、マクロレベルでの「現代ドイツ政治分析」という具体的状況分析へと適用する作業を行う。この後段のマクロレベルでの政治情勢分析のため、本研究代表者は平成29年9月に行われるドイツ連邦議会選挙の現地調査を実施する予定である。ヨーロッパ諸国では現在、中東からの難民流入問題を契機としてポピュリズム的政治運動が活性化しており、それがヨーロッパ各国の国内政治を不安定化させる要因となっている。5月のフランス大統領選挙、6月のイギリス総選挙に続く、9月のドイツ連邦議会選挙は、一国政治のみならず、ヨーロッパ統合の動きから世界経済にまで、大きな影響を有することになると考えられる。 これらの作業を通じて、本研究がめざしていた、その解決が困難と思われる「たちの悪い問題(wicked problem)」と称される社会問題に対処するために、多面的な政策形成過程を動態的に分析するための「ガバナンス形成過程モデル」の構築が達成される、と考えている。
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