2015 Fiscal Year Research-status Report
都市内分権のなかの熟議と代表制デモクラシーの関係をめぐる比較地方自治研究
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15K03274
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
宗野 隆俊 滋賀大学, 経済学部, 教授 (60324563)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 都市内分権 / 熟議 / 参加デモクラシー / 近隣のアソシエーション / 地域自治区 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度をつうじて、Verba et al., Participation in Americaや Nabatchi et al., Democracy in Motion等々、主にアメリカの熟議、代表制デモクラシーと参加デモクラシーについての先行研究を読みすすめ、当該領域での主要論点の把握に努めた。 また、平成28年3月1日から9日にかけてオレゴン州ポートランド市を訪ね、同市の都市内分権の中核をなす95の「近隣のアソシエーション Neighborhood Association」と7の「地区連合 District Coalition」のうち、2の近隣のアソシエーションと2の地区連合の活動を調査するとともに、アソシエーションの会員や役員ら関係者への聴き取り調査を行った。また、近隣のアソシエーションを支援するNPOでの聴き取り調査も行った。 さらに、平成27年8月26日から29日にかけて、地域自治区制度が導入された長野県飯田市において、3の地域自治区の地域協議会、まちづくり委員会、ならびに自治振興センターの関係者に聴き取り調査を行った。飯田市では、同市の地域自治区制度の設計に大きな役割を果たした元市職員から、制度の意図や導入の過程に関する情報を得た。 以上のように、ポートランドで現地調査を行い、同市の近隣のアソシエーションは、本研究課題の検討対象として最適であるとの確信を得た。また、国内研究対象として選択した飯田市の地域自治区の制度は、わが国の都市内分権の代表例といいうる新潟県上越市との比較対象として好適であるとの手応えを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「平成27年度の研究実施計画」においては、アメリカの都市内分権と市民協議機関についての先行研究レビューと論点の把握、ポートランド市での現地調査、さらに上越市の地域協議会の調査を行うことを計画としてあげた。この計画に照らして、同年度の研究の進捗は、ほぼ順調といいうる。 アメリカの都市内分権と市民協議機関については、当該分野の定評ある文献や最新の研究成果を読みすすめ、わが国の都市内分権との比較研究上の論点の把握に努めてきた。また、ポートランド市での現地調査を当初の計画どおり行った。同市では、近隣のアソシエーションや地区連合で活動する市民を対象に複数の聴き取り調査を行い、市民が地域の公共交通や環境問題など公共のことがらにつき時間をかけて議論を行い、さらに市政府と協議していく過程の一端を観察することができた。 上越市の地域協議会については、会議録の解読に努め、また市役所や市議会とのコンタクトを継続したものの、現地調査を実施することはできなかった。その一方で、上越市と同じく地域自治区の制度を導入した飯田市で現地調査を実施し、複数の地域自治区のまちづくり委員会や地域協議会をはじめとする関係者への聞き取り調査を行い、次年度以降の本格的な調査研究の先鞭をつけることができた。平成27年度の調査をつうじて、飯田市の地域協議会での市民の討議のあり方は上越市のそれとは随分と異なることが判明した。今後も飯田市での調査を継続すれば、わが国における熟議と代表制デモクラシーの関係を考察するための重要な知見を得ることができると思われる。その意味で、本研究の初年度に飯田市で現地調査を行ったことには、大きな意義がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年においては、前年度に引き続き、ポートランド市で現地調査を行うことを計画している。主たる調査対象となる近隣のアソシエーションは市内に95あり、また地区連合は7ある。近隣のアソシエーションについては、会員(主に当該近隣の住民)の参加と熟議が盛んなものや、市政府との協議が緊密なものなどを選定して活動の実態を調査する。選定にあたっては、アソシエーションと市政府の交渉窓口となる市長直轄部局(Office of Neighborhood Involvement, ONI)にも意見を求める。 同じく平成28年度において、上越市の地域協議会の調査に本格的に着手する。同市内にある28の地域自治区のうち4ないし5を選び、当該区の地域協議会の会議を傍聴し、区内の住民団体やNPOの活動を調査する。さらに、前年度に着手した飯田市の地域自治区の調査を本格化する。飯田市の20地域自治区のなかから3ないし4を選び、まちづくり委員会や地域協議会での公共のことがらに関する協議の過程を調査し、協議されたことがらが市政に反映される過程(あるいは、反映されていないのであればその要因)を分析する。 なお、交付申請書においては、平成28年度に伊賀市の住民自治協議会の調査に着手する旨を記したが、調査対象を伊賀市から飯田市に変更する。これは、本研究代表者が飯田市の調査を行うなかで、同市が「都市内分権のなかの熟議と代表制デモクラシーの関係」という研究課題を追及するうえでより好適であると判断したためである。 なお、平成27年度のポートランド市調査の成果は、近隣のアソシエーションを舞台とする市民の熟議の観点から、コミュニティ政策学会にて公表されることが内定している(平成28年7月2日・3日、於:江戸川大学)。
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Causes of Carryover |
平成27年度においては、本研究課題に関わる国内外の現地調査を行い、また文献や論文の執筆に必要な機器の購入もすすめた。それにもかかわらず次年度使用額が発生した要因は、本研究課題の研究代表者が、本務校の学術助成(平成27年度「陵水学術後援会学術調査・研究助成」、346千円)に応募してこれを獲得し、当該助成を用いてポートランド市での調査を行ったことにある。本務校の学術助成の研究課題は本研究課題との共通性がきわめて高く、また平成27年度内に執行しなければ失効するものであったため、優先的に執行せざるをえなかったのである。結果、本研究課題において平成27年度に予定していたポートランド市調査への費用支出を断念することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由により発生した次年度使用額は、全額、平成28年度の旅費に充てる計画である。交付申請書の平成28年度の研究実施計画においては「ポートランド市での近隣のアソシエーションの現地調査を、2週間を目途に実施する」としたが、同市での調査を2次にわたって行うこととし、次年度使用額をこれに充当する。
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