2016 Fiscal Year Research-status Report
都市内分権のなかの熟議と代表制デモクラシーの関係をめぐる比較地方自治研究
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15K03274
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
宗野 隆俊 滋賀大学, 経済学部, 教授 (60324563)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 参加デモクラシー / 熟議 / 市民的関与 / アソシエーション |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の1年間をつうじて、Jacobs et al., Talking Together, Verba et al., Voice and Equality, Warren, Democracy and Association, Zukin et al., A New Engagement? 等々、代表制デモクラシー、市民参加、熟議についてのアメリカの先行研究を読みすすめ、この分野での主要論点の理解を深めた。その成果として、「市民的関与とは何か」と題する論文を書き上げることができた。この論考は、平成29年6月発行予定の『彦根論叢』412号に掲載される予定である。 また、平成27年度から継続しているオレゴン州ポートランド市の近隣のアソシエーションの制度と運用実態を考察した研究報告を、コミュニティ政策学会第15回大会(平成28年7月2日・3日、江戸川大学)で行った。この研究報告に向けて、平成27年度の現地調査で収集した資料・文献と情報を精読し、近隣のアソシエーションのしくみと運用についての洞察を深めた。 国内の都市内分権と熟議に関する研究として、平成27年度に引き続き長野県飯田市の地域自治区の研究を進めた。平成28年9月12日から14日にかけて現地調査を行い、市議会議員や地域自治区の制度設計に関わった市職員、現在制度の運用に関わる市職員らにインタビューを行い、同市の都市内分権と熟議のしくみ、運用の実態把握に努めた。また、平成28年12月26日と平成29年3月17日に、他の研究者らとともに飯田市の地域自治区に関する研究会を開催し、同市の都市内分権の特徴につき議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「平成28年度の研究実施計画」においては、アメリカの都市内分権制度の文献調査、ポートランド市の近隣アソシエーションの現地調査の遂行を目標としてあげている。このうち、都市内分権制度の文献の読解はかなり進捗し、代表制デモクラシーと熟議の緊張関係と補完関係、参加デモクラシーの意義について考察を深めることができた。これらの研究の成果として、アメリカの代表制デモクラシーと熟議に関する論点を提起する論文を執筆した。 次に、ポートランド市の現地調査は実施できなかったものの、平成27年度の現地調査で収集した多くの資料の解読を進めた結果、平成29年度に実施を予定する現地調査で調べるべき論点が相当程度に明瞭となった。平成28年7月には学会報告も行っており、発表と質疑応答をつうじて、ポートランド市の近隣アソシエーションがもつ参加デモクラシー、熟議デモクラシーへの洞察を深め、その学術的意義の大きさを確信した。平成29年度の研究を進めるための強いモチベーションを得ることができた。 他方で、国内研究においては、当初予定していた上越市の調査はほとんど進展していないものの、飯田市の地域自治区の調査は進捗をみた。特に、飯田市での現地調査と2回にわたる学外研究者らとの共同研究会をつうじて、同市の地域自治区の制度運用、他市と比較しての特徴などを把握しつつある。飯田市の地域自治区のしくみと制度運用は、上越市のそれとは随分と異なるのであるが、今後も飯田市での調査を継続すれば、日本の地方自治体における代表制デモクラシーと熟議についての重要な知見を得ることができると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、ポートランド市で2次にわたる現地調査を行うことを計画している。主たる調査対象となる近隣アソシエーションは市内に95も存在するが、平成27年度の調査をつうじて、活発なアソシエーションを複数見出しており、これらを中心に役員へのインタビュー、近隣で行われるミーティングや活動の実地調査を行う。また、近隣のアソシエーションを支援する街区連合、ならびに、アソシエーションと市政府の交渉窓口となる市長直轄部局(Office of Neighborhood Involvement, ONI)の職員に、職務実態を聞き出すインタビューを行う。なお、これまでのポートランド市調査の成果を反映した学会報告を、11月に予定されている日本地方自治学会の総会・研究会で行うことを目指す。 国内においては、飯田市と上越市の地域自治区の調査を行う。いずれの市においても、地域自治区に設置された地域協議会で公共のことがらがどのように協議されるのか、協議された内容が市政にどのように反映されるのかを、当事者へのインタビューと政策過程の分析をつうじて検証する。なお、ここにいう当事者には、地域協議会の委員、市職員、議会議員などのアクターが含まれる。これらの方々とのコンタクトをとるために、飯田市では9月に、数日間をかけた集中的な調査を行う。その際には、コミュニティ政策学会の研究プロジェクト(「地域自治区研究プロジェクト」)のメンバーとの共同調査を行う。また上越市の調査については、講義休業期間を中心に3回ないし4回の調査を組みたい。 飯田市調査の結果を反映した研究成果は、平成30年度のコミュニティ政策学会大会で分科会を組織して報告することを目指す。これに関しては、平成29年度の現地調査の態勢・日程とあわせて、現在「地域自治区研究プロジェクト」のメンバーとの調整を進めている。
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Causes of Carryover |
平成28年度においては、当初予定していたポートランド市調査を行うことができなかった。その最大の理由は、当方が実地調査を希望した街区連合の役員との日程調整が不首尾に終わったことにある。また、平成28年度後半に文献解読に注力する日が続き、旅費として計上した予算を十分に執行することができなかった。 さらに、国内の研究についても、飯田市の現地調査やその成果を議論する研究会は計画どおり実行できたものの、上越市調査を行うことができず、旅費として計上した予算を十分に執行することができなかった。こうした理由で、次年度使用額が発生した次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由により発生した次年度使用額は、平成29年度の物品費と旅費に充てる計画である。物品費は、主にアメリカと日本の都市内分権、熟議に関わる図書の購入にあてる。旅費は、ポートランド市での現地調査と上越市での現地調査の他に、「地域自治区研究プロジェクト」のメンバーの協力を不可欠とする飯田市現地調査のために用いる。
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