2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K03275
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高橋 百合子 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (30432553)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 民主主義 / ラテンアメリカ / 福祉国家 / 福祉再編 / 政治経済学 / 貧困 / 格差 / 社会的保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、民主化してから30年が経過したラテンアメリカにおいて、政治経済的条件の変化を考察しつつ、同地域で新興する福祉国家再編過程の規定要因を解明することである。平成29年度は、ラテンアメリカ域内において社会経済発展度が比較的低い中米のグアテマラと、南米アンデス地域のエクアドルに焦点を合わせて行うことを目的としていた。当初、現地調査を含めて研究を進める予定であったが、以下の様に研究計画を若干変更した。 (1)両国の事例について調査・研究について、現地調査を行う代わりに、アメリカおよびメキシコでの国際学会に参加し、両国の社会扶助政策に関する最新の研究動向について学んだ。前年度までの研究成果を両学会で報告するとともに、パネル参加者との議論を党して、ラテンアメリカにおける福祉国家再編過程についての最新の情報を得ることができた。特に、2015年以降、同地域における経済成長の鈍化とともに、所得格差および貧困は再び悪化しつつあることから、社会的保護政策の重要性がより一層高まっていることが明らかになった。 (2)ラテンアメリカ全般の政治についての専門家をメキシコから招き、専門知識を提供してもらった。エクアドル、ペルー、ボリビア等のアンデス諸国においても、福祉改革が重要な政治的課題として認識されていることを確認するとともに、ラテンアメリカにおいても社会経済発展度が低い国においては、厳しい予算制約の中でどのように貧困を削減するかが、依然として重要な問題であることが再確認された。 (3)昨年度の研究を通じて明らかになった、地震等の大規模自然災害が社会的保護のあり方に与える影響について研究を深めた。特に、自然災害が、貧困層、および社会的に脆弱な層の生活レベルの悪化をもたらし、そのような人々がどのように利益表出を行い、政策形成へと影響を及ぼすのかについて、メキシコ、中米を中心として研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のように、当初は、平成29年度に中米のグアテマラと南米のエクアドルでの現地調査を行い、これら2カ国の事例に焦点を絞って、それぞれの国における社会的保護政策の実態について詳細なデータを収集する予定であった。しかし、前年度における研究計画の一部変更を受け、その結果、平成29年度の研究計画についての若干修正する必要が生じたため、やや遅れていると認識している。 その一方で、アメリカとメキシコで開催された国際学会での研究報告、および専門家の招聘を通して、グアテマラとエクアドルにとどまらず、域内における社会経済発展度が低い事例である他の国における福祉国家再編の現状、規定要因、情報源について理解を深めることができた。さらに、昨年度の研究で明らかになった、自然災害が社会的保護政策へ与える影響の重要性について研究を進める段階で、本研究課題を理論・実証の両面でより発展させるために、この新たな知見をどのように統合するのが相応しいか、その具体的な方向性・方策を明らかにすることができた。この自然災害が福祉国家をめぐる政治経済に与える影響については、その成果の一部を研究論文として執筆し、すでに出版するに至った。 統合すると、本研究課題の中間報告を国際学会で報告、および成果の一部を出版することが出来た点は計画通りに進んでいるが、当初の研究計画に含まれていたグアテマラとエクアドルでの現地調査を行うことができなかった点で、これら2カ国における福祉国家再編の政治経済的背景、とりわけ政治過程についての詳細な分析を行うに至っていない。したがって、平成29年度の研究は「やや遅れている」と判断するのが妥当だといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、前年度までに実施した研究内容を踏まえ、本研究課題の総括を行う予定である。具体的に、次の研究を実施する。 (1)事例分析のまとめ:ブラジル、メキシコ、エクアドル、グアテマラの4カ国の事例について、これまでの研究成果をまとめると共に、現地調査を行うことができなかったことに起因する情報の不足を補うために、さらに調査を続ける予定である。その後、これら4カ国の事例の比較分析を行い、定性的な比較事例分析の成果を単独の論文にまとめる予定である。さらに、その成果について、学会もしくはワークショップ等で報告し、専門家からのフィードバックをいただき、議論を精緻化させることを試みる。 (2)研究成果の出版に向けての準備:まず、平成27年度に実施した定量的分析、および本年度に行う定性的事例分析の成果を統合し、「ラテンアメリカにおける福祉国家再編の政治経済学」についての理論・実証的の面で新たな学術的貢献となるべく、単著として出版する準備を進める。さらに、本研究課題についての研究成果を、研究遂行のために協力いただいた各国の関係省庁、団体、学識者にも還元することを目指し、研究成果の一部を英語、スペイン語、もしくはポルトガル語でも執筆することを試みる予定である。なお、この研究成果は、学会発表もしくは出版物のいずれかの形式を考えている。
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Causes of Carryover |
平成29年度には、当初予定していた南米のエクアドルと中米のグアテマラにおける現地調査による資料収集を行わなかった。その代わりに、アメリカおよびメキシコで開催された国際学会で研究成果を報告した際に、これらの国における福祉国家再編についての知見を得ることができた。このように、当初の予定とは異なる外国での調査・研究を行った子ために差額が生じ、それが次年度使用額として計上されることとなった。 平成30年度は、この差額を、エクアドルとグアテマラの事例についてさらに情報を収集するための文献調査にかかる費用(主として書籍の購入)にあてる予定である。
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Research Products
(4 results)