2015 Fiscal Year Research-status Report
課税の公正と財政支出の公正を統合する政策規範形成のための理論的研究
Project/Area Number |
15K03280
|
Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
伊藤 恭彦 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (30223192)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 租税 / 正義 / 公正な課税 / 財政的正義 / 市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は課税の公正さに関する伝統的基準の理論的な再検討を行った。特にアダム・スミスの市場社会と公正な課税との関係とヨセフ・シュムペーターの租税国家論についての分析を行った。またイマヌエル・カントの租税論を検討する中で、租税と人間の尊厳(人間の尊厳の相互尊重義務)という新たな論点を見出した。この点は従来の租税論では中心的に論じてこられなかったものであり、次年度以降、公正な課税規範を構想する上での中心的価値にまで加工したい。また分配的正義に関する内外の新しい研究成果の吸収、財政的正義の規範理論的研究にも着手できた。 本研究は規範哲学と公共政策学の架橋を税制論という研究課題において行うものであるが、改めて公共政策学と規範哲学の原理的な関係について研究を進めた。この研究は本研究課題の基礎となる部分である。規範哲学は①公共政策に対する批判的機能、②政策決定過程における規範的ブレを予防する作用(道徳の羅針盤機能)、③政策デザインのベースとなる社会構想の提示という形で公共政策に貢献することを明らかにした。この点については日本公共政策学会と日本政治学会において報告し、貴重なコメントを得た。次年度以降の研究の基礎を形作ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
規範哲学と公共政策学との原理的な関係という問題は研究計画段階では本年度の中心的なテーマとは考えていなかったが、あえてこのテーマを研究することで、本研究全体の学術的、政策的意義を確認することができた。その点では研究の基礎に立ち戻ったことで逆に研究全体の見通しをえることができたと言える。「財政的正義」に関する理論研究がやや遅れ気味であるが、文献資料は入手しており、次年度に回復することができると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
市場社会における公平な課税についての研究を進めるために、市場社会における人間の尊厳の損傷と政府の規範的役割についての理論的研究を行い、その理論的枠組の中に財政的正義、課税の公平さといった基準を位置づける研究を進める予定である。また社会構成員の社会への「貢献」という観点から「公正な貢献」という観点からの税制論もあり、あわせて検討する予定である。 研究については昨年度と同様にに文献資料を中心とした理論的、哲学的研究が中心となる。本研究課題の中間的な成果は関連研究会や学会で発表する予定である。
|
Research Products
(3 results)