2018 Fiscal Year Research-status Report
近世・近代日本における科学と政治思想ー蘭学の比較政治思想史研究ー
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15K03286
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大久保 健晴 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (00336504)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 政治思想 / 蘭学 / 科学 / オランダ / 日本政治思想史 / 比較政治思想 / 東洋政治思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、徳川期における蘭学の勃興と展開について、西洋学術の伝播と東アジアの伝統との相剋を視野に入れながら、比較政治思想史の観点から検討する。その上で、近世蘭学の伝統と蓄積に熟達した洋学派知識人達が、開国を通じていかに西洋近代と向き合い、「科学と政治思想」の枠組みを作り上げたのか、近代日本の始源に立ち戻って問い直すことを最終的な目的とする。 平成30年度は、論文執筆に取り組むとともに、国際的な学術会議やシンポジウムに参加し、精力的に研究発表、討議を行い、これまでの科研費による研究成果を広く世に公開する機会を得た。 学術論文としては、「蘭学と西洋兵学―比較と連鎖の政治思想史―」を執筆した。この論文は、『日本思想史学会創立50周年記念論文集』に収められ、2019年に公刊の予定である。また昨年度、岡山日蘭協会シンポジウムにおいて行った研究講演「近代日本法学の先駆 津田真道」が『岡山蘭学の群像3』に収載され、書物として出版された。 国際学術会議での報告・討論としては、まず7月にパリに赴き、フランス・人間科学財団主催の研究会合にて、“Civility”に関する研究提言を行った。9月には、スイス・チューリッヒ大学に招聘され、国際的な研究プロジェクトHERA Conferenceにおいてコメンテーターをつとめた。11月には、スペイン・マドリードで開催された国際学会に招聘され、基調講演を行った。また同月、中国・中山大学で開催された国際学術会議では、研究発表を行った。さらに、12月に国際日本文化研究センターで開催された国際研究集会においてコメンテーターをつとめ、2019年3月に中国・中山大学で開催された国際学術会議では、“Dutch Studies in Nineteenth-Century Japan”というタイトルで研究を発表した。 加えて、本年度はオランダとパリで史料調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、夏期と春期に、二度にわたってオランダに渡り、ライデン大学図書館とハーグ国立公文書館において史料調査を実施した。そこでは、18-9世紀ヨーロッパにおいて形成された軍事科学技術(Military Engineering)と土木(Civil Engineering)の学識と制度が、オランダを媒介に、徳川後期の日本にいかに受容され、近代国家形成の礎を作り上げたのか、貴重な研究の手がかりを得ることができた。またあわせて、パリのフランス国立図書館において、フランス革命以降のヨーロッパ政治に関する情報が東アジア世界にどう伝播したのかという主題を巡り、多くの一次史料を入手することができた。 さらに本年は、フランス・パリ、スイス・チューリッヒ大学、スペイン・マドリッド自治大学、中国・中山大学、京都・国際日本文化研究センター、それぞれにおいて開催された国際学術会議・国際研究プロジェクトに招聘され、広く世界の研究者に対して、自らの科研費の研究成果を公開し、討論を行う機会を得た。今日、西洋中心主義を脱した、グローバル・ヒストリーの視座から、いかに新たな比較政治思想史研究を確立し、歴史の相互理解に裨益する知見を得ることができるかという研究課題が、世界的に注目を集めている。国際学術会議への参加を通じて、本研究がこうした国際的な研究課題に大きく貢献する可能性を持つものであることを、世界の研究者に向けて示すことができた。このことは、本研究の今後の進展にとって極めて大きな意義を持つ。 そしてこれらの経験と研究成果をもとに、学術論文「蘭学と西洋兵学―比較と連鎖の政治思想史―」を執筆した。この論文は、論文集として出版されることが決定しており、科研費の成果を広く一般の人々に公開することが可能となる。 以上の点より、本研究は、当初の研究計画を上回る成果を残すことができていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年をむかえる2019年度は、研究全体の総仕上げを行う。具体的には、オランダに史料調査に赴き、18-9世紀オランダ政治思想、政治史、科学思想、ならびに近世日本の蘭学に関する史料調査を実施する。明治初期に日本を訪問したオランダ技師達が書き残した日記や手紙などをはじめとした一次史料の収集・解読など、本研究の核となる調査に従事する。その作業と並行して、長崎など、国内における調査も行う。 また前年度に引き続き、国際学術会議・シンポジウムに精力的に参加し、本科研費にも基づく研究成果を広く世界の研究者に向けて公開するとともに、討議を通じて、研究のさらなる質的向上につとめる。その一つとして、2020年1月にフィリピン・マニラで開催される国際学術会議において研究報告を行うことが、既に内定している。 そしてこれまでの研究をもとに、さらに複数の論文を執筆し、公刊することを予定している。 これらの作業を通じて、全体の研究成果を大きな一つの形としてまとめる計画である。
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Research Products
(6 results)