2019 Fiscal Year Research-status Report
近世・近代日本における科学と政治思想ー蘭学の比較政治思想史研究ー
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15K03286
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大久保 健晴 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (00336504)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 政治思想 / 蘭学 / 科学 / オランダ / 日本政治思想史 / 比較政治思想 / 東洋政治思想史 / グローバル・ヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、徳川期における蘭学の勃興と展開について、西洋学術の伝播と東アジアの伝統との相剋を視野に入れながら、比較と連鎖の政治思想史の観点から検討する。その上で、近世蘭学の伝統と蓄積に熟達した洋学派知識人達が、「開国」を通じていかに西洋近代と向き合い、「科学と政治思想」の枠組みを作り上げたのか、近代日本の始源に立ち戻って問い直すことを最終的な目的とする。 2019年度は、夏にオランダに赴き、ライデン大学図書館やハーグ国立公文書館において史料調査を実施するとともに、これまでの本研究で積み重ねてきた研究成果を広く世に公開するため、2本の学術論文の執筆に取り組んだ。 1つ目は、論文「19世紀デルフト王立アカデミーと日本」である。同論文はヒト・モノの交流と知の伝播に注目するグローバル・ヒストリーの視座から、1842年創設のデルフト王立アカデミーの存在を機軸に、近世より近代に至るオランダと日本との間の学術ならびにシヴィル・エンジニアリングを巡る交渉史を、文化横断的な視座から解明した。西洋科学・工学の受容と日本近代の形成との関係を主題としたこの論文は、山本信人編『アジア的空間の近代』に収められ、2020年3月に公刊された。 2つ目は、論文「徳川日本における自由とナポレオン」である。同論文では、「那波列翁を起してフレーへードを唱ねば腹悶医し難し」と唱えた吉田松陰の言葉を手かがりに、蘭学者・小関三英訳のナポレオン伝『リンデン撰 那波列翁伝初編』の背景に広がる西洋政治思想の世界と、そこで論じられる自由概念の源泉について、書誌的考察を通じて明らかにした。 さらに6月に韓国・ソウル大学で開催された日韓政治思想学会共同学術会議に参加し、討論者をつとめるとともに、1月にはフィリピン・マニラで開催された国際会議「日本・中国・韓国における国史たちの対話」に出席して研究発表を行い、国際的な学術交流を図った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
蘭学の政治思想史を叙述するためには、日本で出版された蘭学書の分析だけでなく、その背景にあるオランダの政治社会や学問世界にも光を当て、その影響関係を含め、徳川日本とオランダ、双方の歴史的動向を両輪としてともに見据えた世界史の視座から検討がなされなければならない。とりわけ18世紀末のフランス革命から、ネーデルラント連邦共和国の崩壊を経て、オランダ王国が近代国家化を進める過程は、徳川日本の蘭学者の学問や世界認識に大きな影響を及ぼした。 そこで2019年度は、夏にオランダで史料調査を行い、昨年度に続いて、18-9世紀ヨーロッパの政治変動のなかで確立された軍事工学と土木工学の学識と制度が徳川及び明治日本に与えた影響について解明した。また、この転形期ヨーロッパに中心的な役割をしたナポレオンは、いかに徳川日本に伝えられたのか、そこで語られたナポレオン像のヨーロッパ側の思想的背景について、本研究で積み重ねてきたオランダ及びフランスでの調査から解き明かし、論文として執筆することができた。 加えて、韓国・ソウルとフィリピン・マニラにおいて、それぞれ国際会議に出席し、討論と研究報告を通じて、海外の多くの研究者に対して本研究の成果を披露し、学術交流を図ることができた。特に本年度は、韓国や中国、東南アジアの研究者と議論する機会が多く、そのなかで西洋中心的な従来の歴史枠組みを超え、グローバル・ヒストリーの視座から広くユーラシアをとりまくヒト・モノ・学術、そして科学と思想の動きを捉えることの重要性を再認識した。 こうして順調に研究を進めていただけに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、当初参加予定であったAAS(Association for Asian Studies)国際大会が中止となり、さらに最後の総まとめとして計画していたオランダでの史料調査を実現できなかったことは、非常に残念であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本来、この2019年度が最終年度であり、2020年3月に、研究の総仕上げともいえるオランダでの史料調査を予定していた。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、残念ながらそれを実施することができなかった。 これらの図書館に所蔵される本研究で調査の対象となる諸史料は、未公刊の手書き史料が多く、オンラインで簡単に入手できるものではない。 そこで、一年間、研究期間の延長を認めていただいた。本年度は、当初の計画通り、オランダでの史料調査を実現することを第一に考え、もし不可能である場合にはオランダの図書館からの史料の複写郵送や、国内の図書館に所蔵される史料の活用など他の方策を模索しながら、必要な研究調査を完了させる。 その上で、これまで積み重ねてきた調査研究の成果とあわせて、新しい論文の執筆に取り組む。 以上の作業を通じて、2015年度から続けてきた本研究全体の成果を大きな一つの形としてまとめる計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、2020年3月に予定していたオランダ・ライデン大学図書館ならびにハーグ国立公文書館での史料調査を実施することができなかった。 そのため、本研究の1年間の延長を認めていただいた。 本年度は、計画通りオランダに史料調査に行くことを第一に考え、もし状況によって不可能であれば、オランダからの資料の複写・取り寄せも含め、代替的な方法を用いて、研究の完成を目指す。
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Research Products
(3 results)